ダウンタウン「ガキ使」8年ぶりの漫才はどうだったか?


高橋維新[弁護士/コラムニスト]

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2017年4月2日放映の日本テレビ「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで」(以下「ガキ」)を見た。

8年ぶりに、看板企画であるダウンタウン2人のトークをやるという触れ込みであり、オンエアは全編が2人のトークであった。

この番組の「トーク」というのは、ダウンタウンの2人がスタジオに客を入れて行うフリートークのことである。通常松本が近況をしゃべり出す形で始まり、最後には視聴者からの質問ハガキに答える「ハガキトーク」を行って、終わる(今回のオンエアではこのハガキトークはなかった)。台本はないと言われている。筆者が見ても、台本があるとは思えない。

そしてこの「トーク」は、8年間ずっと復活を望む声がコンスタントにあった人気企画である。おもしろすぎて台本があるのではないかと疑う声が常にあった人気企画である。

なんでおもしろいのかと言えば、それは「台本がないから」という理由に尽きるだろう。台本を固めてしまうと、それはフリートークではなく漫才になってしまう。(実のところ、台本が緩めの漫才というものも存在するのだが、それを言い出すとややこしくなるのでここでは「漫才というのは押し並べて台本を固めるタイプの芸である」と理解してほしい)

台本ガチガチの漫才の難点は、筆者が方々で指摘している通りである。もう一度以下にまとめる。

(1)台本を守らなければならなくなるので演者が緊張する。

(2)その緊張がお客に伝わるとお客も強張るので、笑いが起きにくくなる。

(3)何がウケるのかは実際にやってみるまで分からないので、台本作成の段階で用意したくだりはウケることもあればウケないこともある。それでもネタ中は台本を守らないといけないので、ウケたくだりをしつこく繰り返すこともできなければ、さほどウケなかったくだりをあっさりめに済ますということもできない(=客に合わせてのネタ内容の微調整ができない)。

(4)噛む、台本を飛ばすとかいった出来事は「失敗」なので、それをツッコむことで起きる無様なタイプの笑いが忌避される傾向に陥る。そのため笑いも正道のボケ1本のワンパターンになりがちである。

そう。デメリットだらけなのである。これに対して台本なしのフリートークの欠点は分かりやすい。「その場でおもしろいことを考えつける腕がないと何もできない」ということである。

ところが、実はこのデメリットはそこまで大きなデメリットではない。松本ですら、舞台上で話すことはなんとなく事前に考えている節がある。そうやって用意しておいた引出をだんだんと開けていくのがアドリブ芸であり、事前に何も考えてはいけないということではないのである。

事前に考えている以上、フリートークも100%完全アドリブということではなく、あくまで「台本が緩め」ということでしかない。話すことは事前にある程度用意してあるが、台詞の一字一句まで指定されているわけではなく、話の順番も指定されておらず、浜田のツッコミの台詞やタイミングも指定されていないし、途中で違う話題に脱線するのも全面的にOKであるというだけである。

【参考】<お笑いの変質>ダウンタウン以降の漫才はどこが変わったのか?

このやり方でやれば、台本ガチガチの漫才のデメリットを全て払拭できるし、その場でおもしろいことを考えつく「瞬発力」がない演者でもある程度対応できる。いいとこりができるのである。

この「台本が緩めのフリートーク」というやり方が今のお笑いのスタンダードになっておらず、台本ガチガチの漫才がもてはやされる傾向にあるのは嘆かわしい限りである。「漫才」というコンテンツはお笑いの世界で大きな顔をしているが、あくまで笑いを生み出すための一つの手段に過ぎず(それも「手段」としての優秀さは下から数えた方が早いと思う)、そんなに大したものではないのである。

もちろん、松本が前述の「瞬発力」に異常なまでに恵まれた芸人なのも確かである。事前に用意している引出も常にたくさんあるうえに、「瞬発力」まであって時間差での天丼をアドリブでやるなんて離れ業までできる。浜田も松本のボケに即応したツッコミをすぐ入れられる。だから「ガキ」のトークは人気なのである。

ここまでトークの長所を褒めたが、当然難点はある。

まず筆者は、トークよりガキの使いが普段やっている企画(昔は毎回番組をトークでしめていたため、この「企画」はトークに先立つ部分という意味合いで「オープニング」と呼ばれていた)の方がおもしろいと思っている。

それはトークにおいても見られる松本のボケほかに、月亭方正・ココリコや他の演者のボケが(天然も含めて)見られるため、「笑い」のバリエーションが多くなるからである。松本の引出と瞬発力も、トーク以外の企画でもきちんと発揮される。

この8年間ダウンタウンのトークの代わりにやっていたレギュラーメンバー5人での着ぐるみトーク(こちらはスタジオに客が入っていないと思われる)も、ダウンタウンだけのトークよりおもしろいと筆者は考えている。松本のボケだけをずっと見ていられる人というのは、松本のファンにほかならないだろう。トークこそが至高と考えている人も、ただの松本ファンではないだろうか。おもしろくなるポテンシャルは「オープニング」の方が高いのである。

ただし、最近の「ガキ」のオープニングは、当たり障りのないロケ企画が多く、不甲斐ない状態だったのも確かである。これを機に、もっとおもしろいオープニングを再び目指していくべきだろう。

また今回のトークも、スタジオのセットを一新して豪華な作りにしてあり、ダウンタウンが2人ともスーツを着ていた。こうやって外面をバリッとさせると視聴者は漫才を聞くような体勢に身構えてしまうため、浜田の衣装は以前のトークの時のようにカジュアルな感じに戻した方がいいだろう

また、あの場にいるお客さんはダウンタウンの大ファンが多いと思われるが、大ファンであるだけに2人の一挙手一投足にいちいち笑っていたので、少し笑い声がうるさかった。本来笑わなくてもいいところでもお客さんたちの笑い声が入るので、見ている方としては何がおもしろいのかが分かりにくくなってくる。「そうやって常に笑い声を入れておかないと不安になるほどの出来でしかできなかったのかな」と邪推さえしてしまうほどだ。もう少し笑い声を切る方向での編集ができるのであればやった方がいいと思う。

あと昔からそうなのだが、浜田のツッコミは「なんでやねん」「そんなわけないやろ」に代表されるような「そのくだりがそこで終わってしまう台詞」が中心である。松本の次のボケにつながるようなフリも含んだツッコミができるとなお良いと考えている。

浜田    「きみ何歳や?」

松本    「10歳」

浜田    「そんなわけないやろ」

 

浜田    「きみ何歳や?」

松本    「10歳」

浜田    「もっといってるやろ」

松本    「92歳」

 

ここに書いたのはすごく基本的な例だが、「もっといってるやろ」というツッコミであれば「もっといった歳を出す」という次のボケにつなげられる。こういうのをもっと増やしていってほしいということである。

 

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高橋維新(たかはし・いしん)弁護士、コラム二スト。1987年、東京生まれ。2006年、東京大学法学部入学。2010年より「マヒ郎」のペンネームでファミ通町内会へ「ハガキ職人」として投稿を始める。現役ハガキ職人を続けながら、2012年に司法試験合格。2013年、弁護士登録(函館弁護士会)。ファミ通町内会長(第5代)。