<演技力とハガキ職人>『ナインティナインのオールナイトニッポン』終了で考える岡村隆史のもう一つの魅力


高橋維新[弁護士]

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『ナインティナインのオールナイトニッポン』が終了する。

20年以上続いていた、ナイナイの冠ラジオ番組である。筆者は、ヘビーリスナーというわけではない。この番組の存在自体を知ったのは、雑誌「ファミ通」の読者投稿欄に投稿を始め、「ハガキ職人」という人種の末端に属して、いわゆる「ハガキ職人」業界に視線が向くようになってからである。

『ナイナイのオールナイト』も、一般のリスナーから投稿されたネタハガキを読むコーナーがメインコンテンツの一つになっており、一般にはそのレベルは高いと(一説にはラジオ番組の中では一番レベルが高いとも)言われている。

ハガキ職人には、主に雑誌系の人と、ラジオ系の人とがいる。筆者はファミ通に投稿しているので、雑誌系である。雑誌とラジオ両方に投稿している人もいるが、絶対数としてはあまり多くない印象であり、両者には棲み分けができている。

筆者は投稿を始めてからこの番組の存在を知り、投稿ネタも職人もレベルが高いという話を方々で聞いて、視野を広げるために、というかあわよくば自分のネタの参考にするために、この番組を聞き始めた。筆者が「ファミ通」に投稿を始めたのは2010年の8月であり、『ナイナイのオールナイト』を聞き始めたのは投稿を始めてからだいぶ経ってからなので、筆者のリスナー歴は長くても3年ぐらいである。

番組を聞いた当初の感想は、「やはり岡村はラジオ向きの芸人ではない」というものであった。

岡村の強みは何か。ひとつは「足りないタッパ(身長)」とサル顔、最近になって加わってきた出っ腹と薄毛というフラ(別稿参照)の四重奏である。フラがあるから、人と同じことをやっても、おもしろくなる。

もうひとつが、天性の運動神経から生まれるキレのある動きである。

ところがいずれも、受け手の視覚に訴える強みであるため、ラジオでは全くもって活かせない。ラジオでは、岡村のサル顔も、俊敏なダンスも、見ることができない。岡村の強みが、完全に封殺されてしまう。

実際に、『ナイナイのオールナイト』でも前半の1時間は毎回岡村が喋るのであるが、テレビに出ている時よりもテンションは概して抑え目で、筆者にはあまりおもしろいと感じられなかった。岡村は、しゃべって生きる人間ではない。もちろん20年以上芸人をやってきたのだから、しゃべる能力も高いレベルでまとまってはいるのだが、明石家さんまや松本人志みたいな一流どころには到底敵わない。岡村にラジオをさせるというのは、それこそ北島マヤに良家のお嬢様の役をさせるようなものであって、完全なミスマッチなのである。

相方の矢部も、ツッコミしかできないので、自分でおもしろい話をしていくようなタイプではない。

ナイナイの2人だけで毎週2時間番組の尺を持たせることができるのか、筆者だったら不安でしょうがない。多分、筆者がニッポン放送のエラい人だったら、『ナイナイのオールナイト』なんていう企画書を持ってきたディレクターを、小一時間問い詰めていただろう。

でも、この番組は続いた。20年続いた。筆者も前半のトーク部分は聞かなくなったが、後半1時間のネタコーナーの部分はずっと聞いていた。

岡村は、見た目と運動神経だけでない、もう一つの隠れた強みを持っていたのである。それが、演技力の高さ、芝居の巧さである。フラの四重奏と運動神経という強みが強力過ぎて、テレビの岡村を見ているとなかなか気づかないのだが、岡村は芝居が巧い。コントの台本を、忠実に再現することができる。この芝居における基礎体力の高さが、岡村の人気を支え続けている。これは、他のサル顔芸人や動ける芸人にはない第三の長所である。

ナイナイのオールナイトを支えていたのも、この岡村の演技力であった。ネタコーナーでは、様々な有名人がネタにされる。岡村はその有名人になりきって、職人が心血を注いだネタハガキを読む。実際にどんなものなのかは番組を聞いてほしいが、とにかく岡村は見た目と運動神経だけではないというのを気付かせてくれるのがこの番組である。

筆者も、累計で3通投稿したことがあるが、全てボツであった。ネタハガキの競争率は、恐ろしく高いと言われている。どれを採用するかは、岡村がハガキを全て読んで取捨選択しているというのが番組の言い分である。

実際のところはスタッフや放送作家のチェックも入っているだろうというのは常に言われることであるが、筆者は岡村が選んでいるという点だけは間違いないと思っている。

岡村が選ぶとなると、読まれるには岡村のツボに合わせるのが近道である。実際にこの番組の常連の職人たちは、この番組の前半のトーク部分はもちろんのこと、岡村(と矢部)のメディア露出をベッタリと追いかけ続けて、岡村に響くネタにアンテナを張り続けている印象を受ける。

ところがこの岡村のツボというのは、端的に言えばベッタベタであまり捻りがないので、実際のところはさほどウケないハガキも意外とスルスルっと読まれてしまう傾向にある。

そういうハガキは、矢部や、収録に同席しているスタッフにも大してウケていないことがありありと伝わってくる(逆に言うと、そういうのがそこまで低くない頻度で読まれることから、作家ではなく岡村本人が選んでいるという点に信憑性が出てくる)。

選者の岡村がこんな調子だから、読まれるネタハガキのレベルも実際のところそこまで高いものではない…というのが数年間この番組の(後半だけを)聞いた筆者の感想である。

こういうことを書くと「自分が採用されなかったから僻んでるんだ」とか「自分が投稿しているファミ通町内会を持ち上げるためにナイナイのオールナイトを貶めているんだ」ということを言われるが、まあそれはおいといてとにかく今述べたのが筆者の正直な感想である。

筆者のような「ファミ通」の投稿欄『ファミ通町内会』に出入りしている人間としては、番組の終了にあたりひとつ気掛かりなのが、職人という「難民」の流入(による「ファミ通」における筆者の採用率の相対的な低下)である。とはいえ、先述の通りこの番組の職人は基本的に岡村のツボを押さえる能力に特化してしまっているため、そこまで脅威ではないだろうというのが正直なところである。

熱帯雨林という環境に特化しての適応を進めすぎてしまった(ヒトでない)類人猿は、熱帯雨林以外の環境では生きていけず、滅びゆく熱帯雨林にしがみつき続けるしかないのである。(高橋維新[弁護士])

 

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高橋維新(たかはし・いしん)弁護士、コラム二スト。1987年、東京生まれ。2006年、東京大学法学部入学。2010年より「マヒ郎」のペンネームでファミ通町内会へ「ハガキ職人」として投稿を始める。現役ハガキ職人を続けながら、2012年に司法試験合格。2013年、弁護士登録(函館弁護士会)。ファミ通町内会長(第5代)。