<北陸電力が値上げ>原発停止で国民1人当たり年間1 万円の負担増に

政治経済

石川和男[社会保障経済研究所・代表]

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2017年10月30日、北陸電力がついに値上げの意向を表明した。2017年度に経常損失80億円と、2年連続で過去最大の赤字が避けられない状況。志賀原子力発電所(石川県志賀町)が再稼働できず、安い電気を作れない状態が続いているからだ。
値上げは、オール電化住宅や大規模な工場・商業施設が対象で、北陸電力の消費者全体の2割。それ以外の一般家庭など8割の消費者は、値上げ対象にはなっていない。日本では、原発を稼働させないと、安い電気を作れなくなるので、値上げせざるを得なくなる。[→ 逆に、原発を再稼働させれば、値下げが可能となる。]

2011年3月、東日本大震災により、東京電力福島第一原発が事故を起こした。以降、原発の再稼働は、震災後に新設された『原子力規制委員会』の審査で新規制基準に合格しないと認められないとの運用になっている。[→ この運用は、世界的にもかなり変・・・。]

志賀原発もそうだが、日本の原発の多くは再稼働できずにいる。震災以降、いわば『停止塩漬け』のまま。北陸電力は、志賀原発2号機(135.8万kW)の再稼働の審査を申請中だが、進捗状況は芳しくない。経産省の試算では、100万kW級の原子炉1基が稼働率80%で稼働すると、年間350〜630億円のコスト削減効果。志賀原発2号機が再稼働すれば、値上げは回避できるし、将来の値下げも期待できる。

【参考】<太陽光発電のムダ>累計買取費用32兆円でも電源割合わずか7%

審査を担う原子力規制庁の担当官の数が少なく、審査の要請に対応し切れていない。役所組織の都合で審査が満足にできずにいる。[→ 民間企業を相手に、こんなバカな規制行政を一体いつまで続けるのか。]

新基準に合格しないと再稼働を許さないなどという規制運用は、常軌を逸している。先ずは再稼働を容認し、稼働中に新基準の適合審査を進めるというのが、世界的にも常識的な規制行政の姿だ。[→ 原子力規制委・規制庁は、そんなことも知らないのか?]

原発が稼働しないと、その分だけ火力発電所を代替稼働させておかなければならなくなる。そうなると、化石燃料(天然ガス、石油、石炭)の輸入費用が膨らむ。[→ これがバカ高い。]

国全体で見ても、火力発電比率は65%(震災前2010年度)から83%(2016 年度)にまで急増。輸入依存度の高まりは、決して望ましくない。[→ 安全保障上のリスクが膨らむ。]

2016 年度の原発停止に伴う燃料費増加分は、年間約1.3兆円、国民1人当たり約1 万円。震災以降の燃料費増加分の合計は約15.5兆円。[→ 国民1人当たり約12万円の負担増。]

更に、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)に基づく再エネ賦課金は、2016 年度で約1.5兆円。[→ 国民1人当たり約1.2万円の負担増。]

消費税1%分が年間2.5兆円だということを考えても、上記のエネルギーコスト負担増の大きさを見過ごすことはできないだろう。それに、原発を再稼働させずに再エネ導入を拡大すると、二重の負担増になってしまう。

【参考】<マスコミが報じない>福島原発事故「子どもへの被曝影響なし」

大手電力10社のうち、沖縄電力を除く9社は原発を保有。震災後、7社(北海道電力、東北電力、東京電力、中部電力、関西電力、四国電力、九州電力)が値上げを実施。

関西電力高浜原発3・4号機は、今年6〜7月に再稼働。火力燃料費など877億円のコスト削減分を値下げ原資に充当し、8月に値下げ。家庭向け3.15%、企業向け4.90%、全体で4.29%の値下げ。月々390kWh消費する平均的世帯で電気代が年間約4000円安くなる。

多くの原発では、再稼働の予定時期は過ぎている。収益を生み出す原子力発電は停止中なのに、収益を生まない他の業務(使用済燃料の管理など)が継続中となれば、赤字幅は広がるばかりだ。

国政選挙に五連勝した安倍政権ではあるが、支持率がほんの一瞬下がることを恐れて原発再稼働問題について前面に出ることを躊躇しているのだろうか。安倍首相は、原発再稼働を容認する会見を開くだけで十分だ。即刻、実行されたい。

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