<上智大チームが分析>争点・政策の検証が弱い2017年衆院選報道


上出義樹[フリーランス記者/上智大学メディア・ジャーナリズム研究所研究スタッフ]

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昨年10月に行われた衆議院選の新聞・テレビ報道の特徴を、上智大学文学部新聞学科の「選挙とメディア」研究会(代表・音好宏学科長)が調査・分析した。

既に、朝日新聞の1月12日付朝刊メディア欄などで調査結果の概要が報じられているが、本稿では、朝日の記事が触れていない新聞報道を中心に、上智大チームの担当教授のコメントも紹介しながら、分析内容の要点を見てみたい。

<在京の主要な新聞・テレビを対象に調査>

この調査は、衆議院解散が報じられた昨年9月17日から、投開票翌日の10月23日までの37日間にわたり、東京で購読・視聴できる新聞6紙と、地上波テレビ6局の関連報道を対象に行った。新聞は、選挙関連記事の総本数などの量的分析と併せ、1面の見出しや社説の内容、各紙の議題設定の特徴などを分析。

一方、テレビは、ニュース・報道系と情報・ワイドショー系番組について選挙関連の放送時間や番組内容の集計、分析を行った。

<改憲や北朝鮮問題などの重視は6紙に共通>

まず、新聞報道では量的分析の結果、各紙が主要な争点として重視したテーマは、論調の違いや賛否は別にして、「憲法改正」「北朝鮮」「安全保障」で、どの新聞でも上位5位に入っている。改憲問題は朝日、毎日、東京が争点の第1位で、読売は第4位、日経と産経がともに2位だった。

「北朝鮮」と「安全保障」は、読売と産経がそれぞれ1-3位内、朝日と東京は4-5位などと、濃淡はあるが、安倍晋三首相が北朝鮮への「圧力」路線の賛否を解散理由に挙げたことを反映して上位に入ったと、調査チームは分析している。

<「森友・加計」学園問題は各紙の扱いが二分>

一方、「森友・加計」学園問題は、朝日、毎日、東京が争点順位の2位または3位だったのに対し、読売、日経、産経では上位5項目に入っていない。同問題で6紙の扱いが二分したことも今衆院選報道の特徴と言える。

安倍首相が「北朝鮮」や「アベノミクス」などを強調したのに対し、野党側は「森友・加計」で攻め、改憲の危険性を訴えた。この図式が報道の議題設定にも繋がった形だが、各紙とも争点の取り上げ方が総花的だった。

<国民への責任果たせぬ総花的な紙面>

新聞報道の分析を担当した小此木潔教授は、総花的な紙面について「選挙報道はこれまでも議席数や当落、政党間の勝ち負けといったことに焦点が当たりすぎ、政策評価や判断に関して有権者に豊富な判断材料を提供するという使命を果たせないできた。

【参考】安倍首相「読売を熟読して」発言は癒着ぶりの極み

今回の衆院選報道も、残念ながらそういう結果であった」とコメント。「とくに、各紙が争点報道では改憲問題が重要であると書いておきながら、どういう改憲で何が変わり得るのか、についてシミュレーションや専門家のインタビューすらほとんど行わなかったのは、情けない。

北朝鮮の核・ミサイル問題も、外交による解決には何が必要か、もしも戦争になったらどんな被害が出るのか、について冷静に考えるような記事をほとんど書いていない。これでは危機感をあおる勢力に加担するようなもので、国民に対する責任を果たせていないと言わざるを得ない」と指摘する。

<選挙報道が増えたテレビも検証番組は減少>

他方、テレビの選挙報道はどうだったか。衆院選関連の放送時間を投票日前日までの4週分について2014年の前回衆院選と比較すると、今回が計298時間で、前回の3倍近くに増え、173時間放送した情報・ワイドショー系番組に限ると、前回の8倍強にもなる。

小池百合子・東京都知事の新党立ち上げのほか、国会議員の暴言やスキャンダルなどもあって、ワイドショーが「劇場化」を後押ししたが、争点について現場の実態を取材し問題提起をする報道は全体の2%しかなく、前回衆院選の19%から大きく減少した。

テレビ報道の調査・分析を担当した水島宏明教授は、争点を自ら検証するテレビ番組の激減に、「深刻な危機感を持たざるをえない」と、分析結果を受け止めている。

 

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上出義樹

(かみで・よしき)北海道新聞社でシンガポール特派員、編集委員などを担当。現在フリーランス記者。上智大学メディア・ジャーナリズム研究所研究スタッフ