マスコミも追及不足? なし崩しの「北朝鮮空襲警報=Jアラート」
上出義樹[フリーランス記者/上智大学メディア・ジャーナリズム研究所研究スタッフ]
***
<「北」のミサイル発射を緊急発信する「Jアラート」に住民は戸惑いや違和感>
北朝鮮のミサイル発射や、自ら「水爆」とPRする核爆弾の実験が相次ぐなかで、日本政府が東北や北海道の市町村に発信した「Jアラート」(全国瞬時警報システム)が、関係住民に戸惑いや違和感を与えている。高齢者からは「戦時中の空襲警報を思い出す」との声も聞くが、それもそのはず。
「Jアラート」は有事立法の一環としてつくられたキナ臭い仕組みなのだ。しかし、マスコミ報道はほとんどそのことに触れず、問題の核心を突いていない。
<戦争を知る世代から「平和の時代に『空襲警報』を聞くとは・・・」の声>
8月29日早朝に北海道上空を通過した北朝鮮の弾道ミサイル発射に関連して9月1日付の北海道新聞に、生々しい一文が掲載された。札幌近郊の恵庭市に住む88歳の読者からの投稿で、
「昔のように防空壕の備えがあるでもなし、どのように対処していいのか見当もつきません」
「平和の時代にいきなり『空襲警報』を聞くことになるとは夢にも思いませんでした」
などと、戸惑いと驚きが綴られている。
札幌近郊の自治体の場合、恵庭市や千歳市などの住民は、「Jアラート」と連動する屋外スピーカーや各家庭の受信機で警報を聞いたが、自然災害の少ない札幌市や江別市などはこうした設備がなく、情報を伝達していない。
<有事立法に基づくキナ臭い仕組み メディアは問題の核心に触れず>
「Jアラート」は、一連の有事立法の第2弾として2004年に施行された「国民保護法」(武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律)に基づくシステムで、総務省の管轄下にある消防庁が、内閣官房の伝達を受け発信する。
【参考】北朝鮮の異常な真実を描くドキュメンタリー「太陽の下で」
2012年からこれまでに、いずれも北朝鮮のミサイル発射に対応して3回発動されているが、問題なのはミサイルの被害の想定などが示されないまま、なし崩しの「空襲警報」になっていること。
そもそも「国民保護法」には、有事の際には民間の家屋や土地の強制使用などが定めれているが、同法を含め有事関連法は「国民不在」の不十分な議論のままで国会を通過している。
<危機感を煽っているのは支持率を回復させたい安倍政権との指摘も>
9月5日の閣議後会見で「Jアラート」の適正な運用につい記者から質問された野田聖子総務相も、この問題では曖昧な説明でお茶を濁している。
森友・加計問題などから国民の目をそらし、内閣支持率を回復させるために安倍政権が危機感をあおっているとの指摘もあるが、あながち見当外れではないようだ。
【あわせて読みたい】