<戦後70年「戦争と原爆」を語りつぐ>吉永小百合の朗読とジブリ美術監督・男鹿和雄の挿絵で企画展

映画・舞台・音楽

岩崎未都里[学芸員・美術教諭]
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「となりのトトロ」(1988)、「もののけ姫」(1997)などのジブリ作品に見られる印象的な美しい背景は、広島県熊野町の「熊野筆」で描かれています。
ジブリ作品の美術監督・男鹿和雄さんが、熊野筆の描き味に惚れ込み、アニメ背景画専用に筆を特注し、そのご縁は始まったそうです。
さて現在、広島駅からクルマで30分の熊野町の山間ある文化施設「筆の里工房」において「戦後70特別企画 第二楽章 男鹿和雄展~吉永小百合と語り継ぐ~」(7月4日~8月31日)が開催中です。
女優・吉永小百合さんは主演作「夢千代日記」(NHK)以来、1986年から17年間にわたり広島や長崎にまつわる朗読をライフワークとして続けてきました。 そんな吉永さんが朗読をCD・詩画集にまとめたのが「第二楽章」です。広島・長崎・沖縄篇がありますが、吉永さんの強い希望により、男鹿さんの挿絵が加えられています。
1997年には、広島篇の朗読CDが「第39回日本レコード大賞企画賞」を受賞。今年3月11日には、福島第一原発被災者らの詩を朗読したCD「第二楽章 – 福島への思い」が制作、発売されました。
今回の企画展の本質は、日本人の「原爆・核・原発」への想い。「平和記念資料館」とは全く違います。何故なら、「戦後70年」と銘打つからには、広島と長崎、加えて男鹿さんが美術監督をしていた1983年のアニメ映画「はだしのゲン」の凄惨な絵とともに、泣かせる朗読が流れるのだろう、と筆者は思い込んでいたからです。
しかし、展示内容は「広島・長崎・沖縄」、別室に「福島」の現状を描いた「静かで美しい絵と、穏やかな朗読」。特に、川面に灯篭が灯る「夜明けの原爆ドーム」からはしばらく目が離せません。
美しい灯篭の灯りひとつひとつが失われた命。本来灯篭流しは夜行うものですが、「みる方々へ希望を与えたいので夜明けにしてください」という吉永小百合さんの意向で夜明けの灯篭流しとなったそうです。
男鹿さんの絵の訴求力はとても強く、一般市民からみた「真実」を描いているので、言葉にせずとも閲覧者方々は、人種や国籍を問わず感情を揺さぶります。この企画展の意図が強く伝わってきます。
8月31日まで開催ですので、ジブリファンならずとも、一度足を運んでみてはいかがでしょうか。
 
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