「日本のお米が消える」だけではない重大な危機 -植草一秀


植草一秀[経済評論家]

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私たちの命と未来を支える根源的なものを三つあげるとすれば、「水」、「種子」、「教育」といいうことになるだろう。日本では水を「湯水のように」扱うが、飲用可能な水資源は世界的に希少になっている。水は命の源であり、いま、世界における最重要の戦略物資のひとつになっている。

ハゲタカが、この水に狙いをつけると同時に、ハゲタカにこの水を献上する愚かな行動が現実のものになり始めている。

「種子」がなければ「果実」は得られない。日本では、コメ、麦、大豆の主要農作物について、法律によって公的に種子を管理してきた。このことによって、世界でも賞賛される優れた品種が開発され、広く国民の利用に供されてきたのである。

ところが、ハゲタカは、この種子にも狙いを定めている。種子の知的所有権を強化し種子を独占支配しようとする民間巨大資本が、日本においても種子を独占支配することを目論んでいる。国を愛する為政者なら、体を張ってハゲタカの策謀に立ち向かうべきであるが、その為政者があろうことか、ハゲタカの利益のために体を張ろうとしている。本末転倒というほかない。

そして、未来を支えるために、もっとも真剣な考察が必要な重要事項が「教育」であるが、個人の尊厳を何よりも重んじるべきであるのに、「国家のための国民」を形成するために教育を利用するとの時代錯誤の政策が強行されようとしている。

2017年の通常国会には、水道法改定案、主要農作物種子法廃止法案、家庭教育支援法案が提出される見通しである。文字通り、私たちの命と未来を毀損する重大立法が強行されようとしている。」

これは、拙著『「国富」喪失』(詩想社新書) https://goo.gl/s3NidA の「あとがき」に記述したものである。

水道法改正案は国会に提出されたが廃案になった。家庭教育支援法案は自民党が2018年の通常国会で議員立法として提出することが目指されている。しかし、「種子法(主要農作物種子法)」は昨年2月に法案が閣議決定され、4月には可決、成立した。種子法は本年年4月1日に廃止されることになった。十分な国会審議も行われず、極めて重要な法律が廃止される。

このことが何をもたらすのか。

種子法廃止は、誰が、誰のために、何を目的に行われることなのか。私たちの命と未来を左右する、水と種子と教育の問題に、私たちは強い関心を持ち、安倍政権が推進する政治に対する監視を強めなければならない。

このなかで、『月刊日本(2月号増刊 日本のお米が消える)』が刊行された。安倍政権が種子法を廃止した裏の事情がすべて分かる。私たちの生命の源泉であるのが食料である。その食料を支配することは、私たちの生殺与奪の権を握るということでもある。

「民営化」という言葉が美化されて流布されているが、「民営化」とは「新しい利権」に過ぎない。このことを私は、上掲の拙著『「国富」喪失』第2章「日本収奪計画と売国の実態」のなかに「外資や官僚、政治屋が国民の富をかすめ取る『官業払い下げ』」と題して記述した。

安倍政権は農協解体、農業への企業参入の促進、農業分野の規制改革などを推進している。これらの施策は、米国が、かの悪名高き「年次改革要望書」によって日本に要求してきたメニューそのものなのである。

すでに小泉政権時代の「規制改革・民間開放推進会議」の中間報告案に、農地について「農地転用期待を醸成する諸制度および農地保有主体制限の見直し」が、農協について「信用・共済事業等の分離・分割を中心とした農協改革」が盛り込まれていた。

つまり、農地の転用、企業の農業への参入、農協組織の解体は、安倍政権が始動させたものではなく、米国の指令、命令によって、小泉政権がすでに手を付けていた政策なのである。もちろん、小泉政権が立案したものではない。

米国を支配する巨大資本=多国籍企業=ハゲタカが、日本収奪計画の一環として策定した対日指令書に盛り込み、日本政府に命令してきた政策体系なのである。米国でハゲタカの手先として対日本工作活動を展開する者が「ジャパン・ハンドラーズ」と呼ばれる者であり、日本サイドでハゲタカの手先として蠢いているのが「売国者グループ」である。

小泉政権も安倍政権も、こうした売国者たちに法外な権限を与えて売国活動を全面推進させている。東京大学農学部の鈴木宣弘教授は2017年4月6日の衆議院農林水産委員会で次のように発言した。

「(諮問機関のメンバーは)アメリカの経済界とも密接につながっております。それだけを集めて、国の方向性が私的に決められ、誰も文句が言えない、止められないというのは異常事態です。『与党の国会議員になるより、規制改革推進会議メンバーに選んでもらった方が政策が決められる』と与党議員は嘆いておりました。」

「規制改革推進会議」がハゲタカの指令に基づいて、日本の諸制度、諸規制を破壊する実質的な意思決定機関になってしまっているのである。

食料問題、食の安全・安心の問題、そして、国の主権の問題について知るために『日本のお米が消える』を熟読していただきたいと思う。

これらの問題についての第一線の研究者が分かりやすく詳細を解説している良書である。

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植草一秀(うえくさ・かずひで) 1960年、東京生まれ。経済評論家(日本経済論、金融論、経済政策論)。東京大学卒業後、野村総合研究所、大蔵省財政金融研究所研究官、京都大学経済研究所助教授、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、名古屋商科大学客員教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役社長。