<「演出?」それとも「やらせ?」>テレビ番組の“やらせ”とは何か?を実例から考える

テレビ

高橋秀樹[放送作家]
2013年12月20日

 
テレビ番組の“やらせ”とはなにか?
それを考えるために、僕が実際に携わった、あるいは見聞であるが、実際に行われたと裏が取れている事例を列挙する。読者はこれらをやらせと判断するだろうか。
【事例①ぴったし☆カンカン(TBS・1975〜1986年)】
久米宏が司会をして、コント55号の萩本欽一と坂上二郎がキャプテンを勤めたバラエティ『ぴったし☆カンカン』。芸能人、文化人、迎えたゲストのエピソードをクイズ形式で当てる番組だ。スタッフは番組はクイズだという認識はない。むしろ正統的なクイズから遠くに行こう、メタクイズ番組という意識で番組を作っていた。萩本はタレントチームを率いたがその4番目の回答者は藤村俊二。藤村は答えがわかっていても当てない。わざとはずして笑いをとる。
これはやらせか。萩本が率いるのは、全国の予選を勝ち抜いた素人のチーム。スタッフは“こまし”と呼んでいたが、素人の回答者に生放送の直前、問題のアウトラインを説明する。問題文自体を教えることもあった。答えは教えない。勝っても賞金は出ない。記念品程度の賞品だけだ。この“こまし”は、やらせか。萩本はこう言っている「クイズで答えを知っているときは3割の力で」。
【事例②クイズ100人に聞きました(TBS・1979〜1992年)】
まだ、TBSが「民放の雄」と呼ばれていたころ、視聴率30%を越える番組は、『ぴったし☆カンカン』のほかにもあった。関口宏が司会をする『クイズ100人に聞きました』。「水道の水を直接使うのはもったいないと思う水の使い方は何か」というアンケートをとってこの結果をクイズにする。賞金とハワイ旅行が獲得できる。よく聞かれたのは本当に100人に聞いているかということだが、確実に取っていた。ただし、100人のみだと無効票が出てしまうので110人ほどにとって、100人に換算した。前期のアンケートで「洗車」と答えた人が110人中45人居たとすると45割る110で、四捨五入して41人ということにする。これはやらせか。
【事例③欽ちゃんのドンとやってみよう!シリーズ(フジ・1975〜1987年)】
『欽ドン』シリーズは視聴者の投稿はがきをコントにした。素人の瞬発力はすごいものでプロでは発想できない突き抜けたギャグのはがきが寄せられる。ただし、そのままではコントにならないので放送作家がリライトした。僕も、このリライト作業を無数に行ったことで、作家としての地力をつけることができた。これはやらせか。
【事例④笑点(フジ・1966年〜放送中)】
『笑点』の回答は作家が考えている。これはやらせか。
僕なりの回答はあるが、今回、それを書くことは控えておこう。ただし、「品性下劣な嘘をやる番組は論外であることは当たり前である」
原一男監督による『ゆきゆきて、神軍』を見ただろうか。元日本軍兵士、奥崎謙三は、太平洋戦争で自らが所属した独立工兵隊第36連隊のウェワク残留隊で、隊長が部下を射殺したことを知り、この銃による処刑に関与したとされる元隊員たちを訪ねて真相を追い求める、その様子を追ったドキュメンタリー映画だ。
ただしこれはそこで起きたこと、そこにあったものをそのまま撮ったものではない。そこで起きたこと、そこにあったものをそのまま撮ったものがドキュメンタリーだとしたら、ドキュメンタリーでさえない。しかし作品としては一級の仕上がりである。
“やらせ”とはなにかを考える意味で奥崎の出演するもうひとつのドキュメンタリー『神様の愛い奴』を一緒に見ることを薦める。