<大橋巨泉の素顔>テレビではわがままに見えた巨泉もスタッフには尊敬され好かれていた


高橋秀樹[放送作家]
2014年2月28日

 

大橋巨泉はスタッフに尊敬され好かれている。私も親しみを込めて、ビートたけしがつけたニックネームである「巨ちゃん」と呼ばせていただこう。

巨ちゃんがスタッフに好かれているというのは意外に思うかもしれない。画面から見える姿は傍若無人で尊大でわがまま、といったものであろう。プライベートはその通りと言ってもよいが、それでもスタッフに好かれている。なぜか。

巨ちゃんはもともとジャズ評論家であった。歌も歌う。浜口庫之助さんのような軽い歌い方で僕は嫌いではない。テレビ草創期に人材難のテレビ界に入ってたちまち引く手あまたの売れっ子放送作家になった。その当時は才能がテレビに集まってきていたのだろう、綺羅星のような放送作家が並ぶ。青島幸男、井上ひさし、永六輔、野坂昭如、前田武彦、小林信彦、「面白いから書くより出たほうがいいんじゃないか」スタッフから誘われ、多くの人が演者となった。

その中で司会者として抜群の安定感と機敏さを示したのが巨ちゃんである。『11PM』の冒頭「野球は巨人、司会は巨泉」のフレーズは放送作家出身ならではである。ここでは、麻雀をし、釣りに行き、まだ庶民には手の届かなかったゴルフに自ら興じて、その姿をそのまま番組にした。

政治も語った。競馬評論家でもあったが、その地位を手に入れるために36通りすべての枠連馬券を毎レース買って、「当たった。当たった」と毎回叫んで、評論家になることができたという伝説もある。努力の人でもあるのだ。

中学生だった私は『11PM』の巨ちゃんがうらやましくてしょうがなかった。住んでいる伊東から金曜日に上京して夜のイレブンに出演する。土曜日、日曜日は収録の番組を撮って、月曜日にまたイレブンに出て火曜日には伊東に戻る。理想的な暮らしではないか。

私が、そんな巨ちゃんと初めて仕事をしたのは『世界まるごとHOWマッチ』である。このとき印象的な巨ちゃんを目撃した。

私は小倉智昭のナレーション内容打ち合わせのためにある若いディレクターと一緒にプリ(事前)編集室にいた。そこに、巨ちゃんから誰も介さずに直接電話がかかってきた。指名された若いディレクターが電話に出ると、事前に荒く編集されたVTRを見ていた巨ちゃんが、これから本編集にはいる際になおしてほしい点を懇切丁寧に話したのだという。15分くらいだったであろうか。

これは実はルール違反である。なおしてほしいならプロデュサーを通して言うのが筋である。しかし、若いディレクターにしてみれば、普段、遠巻きに見ているしかない巨ちゃんからの直電は、うれしい以外の何物でもない。最後に「頼むよ」と言って、電話を切った巨ちゃん。巨ちゃんの電話で俄然やる気になった若いディレクター。こういうところがスタッフに愛されるのである。

『筑紫・巨泉の報道スクープ特大版』では、こんな経験もした。

収録3時間ほど前に会議室で巨ちゃんにVTRを見せながら解説をした。すると、そのなかの一つの出来が悪かったのである。巨ちゃんは口をきわめて欠点を指摘した。スタッフもその指摘は正しいと認識した。収録まで時間はないがなおせるだけ、なおしてみよう。収録が始まっても編集なおしは続いていた。

完璧ではないものの直前に間に合ってフロアから巨ちゃんにスタンバイOKの合図が出た。すると巨ちゃんはにんまりと満面の笑みを浮かべるとこう言ったのである。

「さて、次は、今日、僕がいちばん好きなVTRです。ご覧ください」

スタジオには爆笑と安堵の気持ちが渦巻いた。よって巨ちゃんはスタッフに尊敬されるのである。「番組制作者の心が分かっている」と。

巨ちゃんはずっと番組を作る側にいたからだろう、OAで(放送上で)決して、スタッフをなじるような言動はしない。たとえ、ひどいVTRが出たとしても、責任は自分がしょって、スタッフ側に立ってくれるのである。

放送作家をしているときに放送上で「つまんない台本ですねえ」といったたぐいのことを出演者に言われた苦い経験があるのではないか。「ならば僕はスタッフ側に立とう」と逆転の発想をするところは放送作家の資質である。

ところが、今も時に目にするのは放送上でスタッフをマジになじる発言をする出演者である。これではスタッフに好かれないばかりか、自分の印象も悪くなることに、この出演者は頭が悪いから気づいていない。テレビを見ている人にとっては出演者も含めてテレビを作っている人たち、という認識なのである。

出演者は時々スタッフをこんな言葉でなじる。

「こんなつまんないもの作って、私がつまんなく見られるでしょ。あんたたちはいいわよ。異動するだけだから。私は一回の失敗で芸能界から消えちゃうかもしれないのよ」

この発言は大いなる勘違いである。局の社員ならその通りかもしれないが、下請けプロダクションのディレクターはそれよりつらい立場にいるのである。

巨ちゃんは打ち合わせのためにプライベートを過ごしているシアトルまでディレクターを呼びつけることはあるが。それは偉そうにしているわけではなく、プライベートの時間に仕事をもぐりこませたからであって、番組が放送された後にも、決して偉そうにスタッフの悪口は言わない。