<所属のない派遣たち>Aテレビで働く、B制作会社に派遣された、C派遣会社に登録する「僕」の所属はどこ?


藤沢隆[テレビ・プロデューサー/ディレクター

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前回の記事「<テレビ局に見る雇用格差>人件費1200万円の正社員ADと360万円の非正規AD」はおかげさまで大きな反響がありました。今回はさらに突っ込んで、テレビ業界の派遣の実情について書いてみたいと思います。

派遣労働で、気になるのは処遇の差だけではありません。ちょっとしたことなのですが、筆者には気になったことがあります。ある派遣スタッフのディレクター君が筆者にこう言ったのです。

「僕には『○○社の××です』という『○○社』がどこにもないんです。取材交渉の電話では派遣先の『Aテレビの××です』って名乗りますが、もちろん僕は『Aテレビ』の人間じゃありません。この番組には、『B制作会社』のスタッフとして働いていますが、僕は『B制作会社』の人間でもなくて、『C企画』という派遣会社から来ています。その『C企画』だって単に登録しただけで、僕は『C企画』の人間でもないんです。いったい僕はどこの××なんですかね。なんかよそ者みたいで居心地がビミューに良くないし、いつも軽いウソをついているみたいで、なんか寒いんですよね。」

この××君は働くに当たって面接はおろか履歴書の提出もしていません。それは派遣法で禁止されているからです。

派遣先は派遣元との間で当該業務をこなす要員1名の派遣契約をしています。派遣とは当該業務をこなす要員であれば誰彼を問わない契約ですから、派遣先が履歴書を見たり面接をすることはありえないというのが派遣法という法律です。

××君を雇用したのは派遣会社で、派遣先は雇用関係のない“要員1名”に業務命令をする・・・。派遣労働とはそういう制度です。××君の成長や未来に対して、誰も、どの組織もかかわりが薄そうで、なんだか切なくなりませんか。××君にはこうした“よそ者”状態が生涯続く可能性だってあるのです。

派遣という働き方を積極的に望む人がいるのも事実でしょうが、かなり多くの人たちが「望んでいない幸せになりにくい制度」という側面が派遣にはあるように思えます。

もし××君が望むなら、胸を張って「○○社の××です」と言える働き方を実現できる世の中であるといいな・・・と思いながらも、日本社会が進んでいる方向はまったく逆で、今や就労者の40%近くが派遣を中心とした“いわゆる非正規労働”となり、日々増え続けています。

ところで、筆者はここまで、“いわゆる非正規労働”という表記をしてきました。

“非正規”という言葉にはどこか真っ当でないというニュアンスもあり、そう言われる方々に対して失礼ではないかと感じて、単純に“非正規労働”とか“非正規雇用”と書きたくなかったからです。せめて、メディアは“非正規”ではない適切な言葉を見つけてくれないかなと思います。

それが概ね不利な処遇を強いられながら、真っ当に働いて社会を支えている人たちへの最低限の礼儀ではないかと思うのですが・・・。

[メディアゴン編集部からのコメント]派遣だろうが正社員だろうが、原則は同一労働同一賃金だと思います。しかしこれは工場労働などにはぴったりな制度ですが、番組作りの仕事となると、同一かどうかは、誰がどうやって判断することになるのでしょうか。私が派遣のADだった頃、正社員のADに課されていたのは徹底的なトリクルダウン命令でした。私は自分の飯代、飲み代、自腹で払ったことがない。だからって正社員に卑屈になることはない……という雰囲気作りはプロデューサーの仕事でした。でも、このトリクルダウン制度も可怪しいですよね。

 

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藤沢隆

藤沢隆(ふじさわ・たかし) テレビディレクター、プロデューサー。 バラエティ、報道、情報、すべての番組を手がけている。 大手制作会社・元取締役。