<選挙後のニッポン>第3次安倍内閣は年間1000億円超の国富を『生け贄』にするな


石川和男[NPO法人社会保障経済研究所・理事長]

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年間1000億円を超える国民負担を軽減する敦賀原発。

それが今まさに、“生け贄”になろうとしている。これはいったい、どういうことなのか?

原子力発電所の再稼働に向けて、電力各社からの申請に対して、国の原子力規制委員会が規制基準への適否に関する審査を順次行っている。進み具合は牛歩のように遅い審査行程ではあるが、去る9月10日の九州電力・川内原発1号機、2号機(鹿児島県薩摩川内市)に続いて、2014年12月17日には関西電力・高浜原発3号機、4号機(福井県高浜町)が審査に合格した。

ようやく2件目も合格判定が出たことになる。しかし、地元自治体の同意を得る必要があるなど、先はまだまだ長い。1件1件の審査にあまりにも時間をかけ過ぎているからだ。

日本原子力発電・敦賀原発2号機(福井県敦賀市)は今、規制基準への適合性審査の前段階の審査を受けている。規制委との最初の公式の顔合わせは一昨年の2012年12月10日。この案件は揉めに揉め続けている。と言うより、実に不可解な展開を見せている。なんと、2年経ってもまだ公式の審査に至っていないのだ。

最初の顔合わせからちょうど2年後の先週10日、「敦賀発電所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合ピア・レビュー会合」という長い名前の会議が開催された。この“有識者会合”は、読んで字の如く、規制委が選任した“有識者”で構成される“会合”。法的な根拠はないので、いわば非公式会合とも言える。

この有識者会合でまとめた評価書案について、第三者の視点から、科学的、技術的見地に基づいているか確認するために『専門家』の意見を聴く場が今回のピア・レビュー会合。この評価書案の趣旨は、敦賀原発2号機の建屋の直下を通る「D-1破砕帯」が活断層かどうかの判定について、“将来動く可能性がある”とするもの。

「有識者vs専門家」という奇妙な構図であるこのピア・レビュー会合は、雰囲気こそ穏やかであったが、その内容は見るに堪えないものだった。2時間45分にも及ぶ長い会合だった。

その全てを見ようと思うほど暇な人は、一般にはなかなかいないだろうが、興味と時間のある人は、Youtubeで「敦賀発電所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合ピア・レビュー会合 (平成26年12月10日)」という動画が公開されているので、そちらをご視聴されたい。

これを見ると、どう考えても“有識者会合”の評価書案には説得力がないことがわかるだろう。D-1破砕帯に関しては、地質学に関してはド素人である筆者にさえ、“有識者”より『専門家』の方に分があると強く感じる。それでも、このピア・レビュー会合に関しては、どのメディアも小さい扱いで、有識者会合の評価を疑問視する専門家の指摘があったものの、評価書案の文言を修正するだけにとどめる旨を報じている。

要するに、D-1破砕帯は活断層であり、有識者会合が先月出した“将来動く可能性がある”とする結論は変えないことになる。

これは恐らく、事務局である原子力規制庁が記者レクのようなものを会合後に行い、それをマスコミ各社がそのまま報じたからだろうと推察する。審議会や委員会で紛糾した場合、事務局である役所側は、直後の記者レクで、自分たちの思い通りの結論に記者たちを誘導することがしばしばある。事務局側のそうした気持ちは、私には痛いほどよくわかる。

国政選挙期間中は、よほど大きな出来事でもなければ、選挙に係る話題以外の話題が大きく取り扱われることはない。12月14日に行われた第47回衆院選は、投票率が52.66%と過去最低になるなど今一つ盛り上がりに欠けた。それでも、テレビも新聞も連日、選挙に関する報道一色になった。

そんな選挙戦の真っ最中に、このピア・レビュー会合のために大きな紙面スペースを割く大手マスコミはいないのだ。

筆者は以前、ある大手新聞社の論説委員と会食した際、原発報道に関して、次のようなコメントを聞いた。そして、耳を疑った。しかし同時に、所詮はこの程度のことなのだろうとも思った。

「寿命に来ていない原発を何基か“生け贄”にしてもらわない限りは、我が社の論説委員や編集委員たちの原発反対への論調は収まらない。振り上げた拳を下ろすことができないなら、原発は容認できない」

規制委がこの大手新聞社と裏で手を握っているとは全く思わないが、敦賀原発2号機に対する規制委の態度は、まさに“生け贄”を求めながら、振り上げた拳を下ろす場所を探しているように思えてならない。

“生け贄”という語をデジタル大辞泉で引くと、「人や動物を生きたまま神に供えること。また、その供え物」、「ほかの人やある物事のために生命や名誉・利益を投げ捨てること。また、その人。犠牲」と解説されている。この場合はさしずめ、後者の意味であろう。

敦賀原発2号機は、中部電力・北陸電力・関西電力の3社に電力を卸売りしている。その効果は、今までの平均稼働率(72.4%)から欧米並みの高い稼働率(約90%)までで換算すると、年間1100~1400億円程度の輸入燃料費の節減となる。原子炉の寿命を40~60年とすれば、敦賀2号機はあと13~33年稼働することになり、その場合の輸入燃料費の節減効果は総額で1.4~4.6兆円規模に上る。

第3次安倍内閣は、この巨額の国富を“生け贄”にしてはいけない。日本には、そんな余裕はない。アベノミクスの成功には、原発の有効活用が必要不可欠である。これまでのデータがそれを如実に示している。安倍総理自身、先の大勝した衆院選の選挙戦での演説で、何度も語っていたことだ。『1日100億円』の国富流出を止めるために早急に政治判断すべきだ。

 

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石川和男

石川和男(いしかわ・かずお)NPO法人社会保障経済研究所・理事長。1965年、福岡県生まれ。東京大学工学部卒業。1989年、通商産業省(現経済産業省)入省。エネルギー政策、産業保安政策、産業金融政策、中小企業政策、消費者政策、物流・流通政策などに従事。2007年3月、経済産業省を退官。2008〜09年、内閣官房・国家公務員制度改革本部、東京財団上席研究員、政策研究大学院大学客員教授、政府の規制改革会議、行政刷新会議WGなどの委員を歴任。