<原発現場と対話しない原子力規制委・規制庁>安倍政権はコスト度外視の原子力規制の行政実務を改善する解決策を提示せよ


石川和男[NPO法人社会保障経済研究所・理事長]

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 東日本大震災による東京電力・福島第一原子力発電所の事故を教訓として、旧原子力安全・保安院に代わって設置された「原子力規制委員会(以下、規制委)」と、その事務局の「原子力規制庁(以下、規制庁)」。

今年の秋で平成24年9月の発足から3年目を迎える。規制委・規制庁など「原子力利用における安全の確保に係る事務を所掌する行政組織」は、規制委の設置法により、平成27年9月までに見直されることが決まっている。

主な論点としては、

  1. 高い独立性など原子力規制組織の要件
  2. 意思決定過程の透明性確保
  3. 助言機関・評価機関の設置
  4. 専門能力と責任感ある人材の育成・確保
  5. 原子力防災など危機管理体制の見直し

・・・といったことが既に挙げられている。この話は今後、議論百出となっていくだろう。

その中で、規制委・規制庁の実務面において、電力会社との『意思疎通』の在り方を根本的に見直していく必要が大いにあることは間違いない。ほんの一例ではあるが、今月1月14日の規制委の定例記者会見での記者と田中委員長のやり取りは、その『意思疎通』の貧弱さを痛感させる。

記者「・・・事業者と意見を闘わせるというのを、どういうイメージなのかというのをちょっと教えてほしいのですが、事業者が例えば審査に物申すというのはこれまでも審査の中でいくつかあった話で・・・こういう話をもっとやってこいということなのでしょうか」

田中委員長「・・・当然審査の過程のプロセスとしてそういう意見が違った場合には、その判断の違いというものについては意見を闘わすということですけれども、・・・とにかく直接言ってくださいということ。」

記者「例えばこれまででも、原電(=日本原子力発電;筆者註)の話で言うと、例えば公開質問状を出してきたりとか、意見書をいっぱい持ってきたりとか、何かいろいろなことをやっているように思うのですが、これについて原則、何か規制委としては。今のところ門前払いみたいな形で対応していたように思っているのですけれども、そうではなくて、ちゃんとそういったクレームみたいなものも規制委として受けるという、そういうことなのですか」

田中委員長「門前払いというのは誤解でして、去年1回結論を、報告書をまとめて了承したのだけれども、それでも納得できないということで、新たなデータが出たらそれは再審査しますということで、随分配慮してきていると思うのですよ。」(筆者註:この会見の議事録や動画は公開されている。上記の抜粋は議事録のp6〜7より)

上記のやり取りの中で、田中委員長は、

「・・・いろいろなことはあると思うのですが、とにかく直接言ってください・・・」

と語っている。しかし、これまでの経緯をつぶさに辿ってみると、全くそうではない。例えば以下のようなものが挙げられる。平成24年12月11日に日本原子力発電から公開質問状が提示されたが、それに対して同12日に規制委が示した方針は以下のようなもの。

<規制委(第16回会議)議事録より抜粋>

島﨑委員「公開質問状は、かなり細かいことも書いてあるのですけれども、それに逐一に答えるということではなくて、全体のことを理解していただくようにきちんとした報告書を作りたいと、このように考えております」

平成25年5月22日にも日本原子力発電から公開質問状が提示されたが、それに対して同24日に規制委が示した方針は以下の通り。

<規制委 定例会見 議事録より抜粋>

森本次長「日本原電から規制委員会宛てに公開質問が出されたということでございますが、その公開質問状について個別に特段の対応ということは考えておりません。」(筆者註:この会見の動画や速記録は公開されている)

また、平成25年9月13日に日本原子力発電から情報開示請求結果(開示請求の対象にならない)に対する申入れに関して同25日の規制委会見での発言は以下の通り。

<規制委 定例会見 議事録より抜粋>

田中委員長 「私どもの評価は、皆さんの前できちっとやっている議論が基本的には全てです。公開でやっているんですからね」(筆者註:この会見の動画や速記録は公開されている)

更に、平成26年6月25日にも日本原子力発電から公開質問状が提示されたが、それに対して同27日に規制庁が示した方針は以下の通り。

<規制委 定例会見 議事録より抜粋>

片山審議官「これまでも、公開質問状というのは日本原電以外にもいろいろこの手のものというのは頂いているかと思いますが、これまでもそれに全て回答するというようなことはしてきていなかったのではないかというふうに思います。従って、今回も具体的に何か回答するというようなことは考えておりません」(筆者註:この会見の動画や速記録は公開されている)

つまり、事業者からの公開質問状にはいちいち答えないという方針のようだ。これは規制行政の実務上、非常におかしな話であろう。原子力規制行政は、犯罪取締り行政ではない。

他の経済的規制や社会的規制にも通じることだが、通常は、規制する側(行政当局)と規制される側(事業者、申請者など)が適切に対話していくことで、その規制によるメリットが開花していくものである。

以上のことからしても、規制委・規制庁は、事業者との対話を今後どのようにしていこうとしていだろうか。前段の方で紹介した今月14日の田中委員長の記者会見での発言を素直に解釈すれば、事業者は規制委・規制庁に「直接言って」良いことになるし、「門前払い」もしていないことになる。だが、実際には公開質問状などで「直接言って」も「門前払い」である。

これでは全く話にならない。民間企業の事業活動は、相応のコストがかかる。いつまでもどっちつかずの状態を放置してはいけない。役所は民間事業活動の邪魔をしていると批判されることが多いのは、こうしたコスト度外視の行政実務が多いからに他ならない。

規制委・規制庁の在り方を検討する安倍政権は、今秋の原子力規制組織改革までに、こうしたコスト度外視の原子力規制の行政実務を改善するための解決策を提示すべきだ。

 

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石川和男

石川和男(いしかわ・かずお)NPO法人社会保障経済研究所・理事長。1965年、福岡県生まれ。東京大学工学部卒業。1989年、通商産業省(現経済産業省)入省。エネルギー政策、産業保安政策、産業金融政策、中小企業政策、消費者政策、物流・流通政策などに従事。2007年3月、経済産業省を退官。2008〜09年、内閣官房・国家公務員制度改革本部、東京財団上席研究員、政策研究大学院大学客員教授、政府の規制改革会議、行政刷新会議WGなどの委員を歴任。