<最先端の映像表現「ヴァチカン美術館」>遠近を「打ち消す4K」と「強調する3D」を組み合わせるとどうなるのか?


玉置泰紀[KADOKAWAウォーカー情報局長兼関西ウォーカー統括編集長]

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大林宜彦監督と食事をさせていただいた時、「時をかける少女」の4K版の話になり、

「遠近感がなくなるんだよね。本来ボケが遠近感を作っている部分があるのに、手前も奥もすべて克明に見えて全ピン(画面全ての部分にピントが合っているような撮影)に見える。不思議な感じ。書き割りを前後において左右に移動させる舞台のような」

と聞いて、作り方が変わりますか? と聞くと、「試してみたい」と仰っていたのだが、遠近を「打ち消す4K」と「強調する3D」を組み合わせると一体どうなるのか。

その答えは2月に公開の「ヴァチカン美術館4K3D 天国への入り口」だ。

2013年にイタリアで制作されたこの美術館の映画は66分の作品だが、40人のスタッフが美術館の中を延べ3000キロ歩いて制作したという。Ultra HD 4K/3D フィルムカメラで撮影したのはステファノ・レベチ。周到に撮影された作品群、建物の映像の狭間には芸術家らしき役者と波紋や風、埃、炎など様々なイメージが挿入される。

本来ダサくなりそうな演出だが、陶酔したテキストの流れが強力で、ダ・ヴィンチやミケランジェロの挑戦や苦悩、ギリシャ・ローマとカトリック、台頭するプロテスタント、ルネサンスの精神などエモーショナルなテーマを作品で紡いでいく構成の見事さにぴったり合致して実に刺激的な説得力に結実している。

なんともオモロいではないか!

ヨーロッパ、イタリアの宗教、芸術の激しさ、エクスタシーが実にエレガントに伝わってくる。これは最近の、壮大なテーマや終末観の濃い深夜アニメの様ではないか。人類の危機や戦い、人間の誇りとかを描くアニメが好きなファンはすごい楽しめるのではないか。音楽も環境音楽的なもの、ミニマルなもの、重たいビートのものなど、感覚的に響くものが続く。

そして、4K3D。

ミケランジェロのピエタや1506年に掘り出された古典彫刻の「ラオコーン群像」など彫像は立体感が3Dによって深く感じ取れるが、やはり隅々まで精細に見える4Kによって細部が等しく前に出てくるため、奥行きの強調と打消しがせめぎ合う緊張感のある画像になっている。

特に、ミケランジェロやダ・ヴィンチ、ラファエロなどの歴史的な絵画は人物部分を浮き出させるような禁じ手の処理がされていて、本来、芸術至上主義の人ならダメ出ししそうな処理をパワフルに展開して、2Dの絵が、3D処理と4K画像の間ですさまじいハレーションを生んでいて実に不思議な世界を作り出した。

映画の監修は館長のアントニオ・パオルッチで、本人自身が出演して説明、舞台回しを務めており、そのうえで、この禁じ手の演出を敢えて強行しているわけだ。

しかし、ヴァチカンと言うものがカトリックの機関であり総本山であり布教、教育と言うものが主眼で、この美術館も単純なアート収集ではないというところが肝だと思う。

実際に映画を観ていて気持ちが高揚し、最後の方に出てくるミケランジェロの最後の審判にカタルシスを感じるのは実に狙いの通りなのではないか。この映画は実に表現として“機能”しているわけだ。

ヴァチカン美術館自体、ローマにまで見に行くことも行って此処まで精細にすべてを見ることも難しい訳でなおかつ4K3Dと言う不思議な映像世界を体験するのは得難いと思う。

パオルッチ館長は高名なルネサンス研究者で文化財保護の第一人者だったが、2007年にヴァチカン美術館館長に就任した。その少し後に僕はフィレンツェに取材に行った。

特にメディチ家の宝を集めたウフィッツィ美術館を2日間たっぷり歩いて取材したが、その時、案内解説してもらったのがパオルッチ館長の息子さんでフィレンツェ大学の教授だった。なんと壮大な前ふりか。

オモロい。

 

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玉置泰紀

玉置泰紀(たまき・やすのり)KADOKAWA ウォーカー情報局長兼関西ウォーカー統括編集長。枚方市生まれ。同志社大 学卒。産経新聞神戸支局から大阪本社社会部と7年間記者。最後は大阪府警本部捜査1課担当。その後、福武書店(ベネッセ)で月刊女性誌を経て角川へ。編集長4誌後、ウォーカー統括に。メディアの栄枯盛衰を体感。