<自閉症であるわが子の気持ち>自閉症の世界的作家・東田直樹氏のベストセラー作品の意義


川松佳緒里[コピーライター/東京都自閉症協会]

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自閉症の作家、東田直樹さん(22)。自閉症の子を持つ親なら誰でも知っている人物といっても過言ではない。

これまでに童話・詩・エッセイなど18冊の本を執筆・出版。とくに13歳の時に書いた『自閉症の僕が跳びはねる理由』(エスコアール・2007)は、世界20カ国以上で翻訳され、ベストセラーになっている。

2014年8月、NHKで「君が僕の息子について教えてくれたこと」というドキュメンタリーが放送された。番組の柱となるのは、『自閉症の僕が跳びはねる理由』を英訳したアイルランド在住の作家・デイビッド・ミッチェル氏と東田氏の感動的な対面の様子だ。

ミッチェル氏には自閉症の息子がいる。かつて英語教師として日本に8年在住した経験から日本語が読めるので、『自閉症の僕が跳びはねる理由』を手にしたという。そして本の中に息子の行動の理由や、息子自身の気持ちを見出だし、英訳を決断した。

彼による『The Reason I Jump』というタイトルの英語版は、イギリスやアメリカでベストセラーとなり、自閉症の子をもつ世界中の親に希望を与えている。

「君が僕の息子について教えてくれたこと」は、ミッチェル氏だけに限らない「自閉症であるわが子の気持ちをこの本で知った!」という親側の喜びの声がいくつか紹介され、親子の関わりの様子や東田氏の姿に、大きな感動と強い希望を覚える内容だ。番組は当初から大好評で再放送、再々放送され、平成26年度文化庁芸術祭テレビ・ドキュメンタリー部門大賞を受賞。2015年2月27日にDVDも発売される。

東田氏の障害は、オフィシャルサイトにもあるが、重度だ。会話はできず、ドキュメンタリー番組で映し出される姿からは、感性きらめく数々の著作が紡げる人物だとは想像しにくい。

しかし、もともと得意であった「書くこと」だけでなく、筆談からトレーニングを続け、今では文字盤やパソコンを使って苦手なコミュニケーションも可能になっている。

番組では、東田氏の豊かな表現力を、脳のはたらきを科学的に調べることで解明しようという展開も盛り込まれている。MRI検査の結果、東田さんの脳は、他人の意図を読みとる部分が健常な人より発達していることがわかる。

筆者はそれは、作家としての才能なのだと感じる。『自閉症の僕が跳びはねる理由』も、伝えるべき内容を求められる表現で伝えるような感じだ。自閉症であるがゆえの本音を、内容は本音そのままに、読み手に心地よく伝わるよう見事に“作品化”させているのだと思う。

思わず、

「ほんとうに映像で見るとあんなに重度で困難そうな子が書いたのかなあ」

と思ってしまう、繊細な感性がそこに展開される。それはディビッドの

「私はどう息子を手伝ってあげたらいいんだろう?」

という問いに対する答えにもいかんなく発揮される。

「僕はそのままで十分だと思います。子どもがほしいのは親の笑顔だから」

「君が僕の息子について教えてくれたこと」を見てすっかり感動した直後、わが家では、たまに起こる大きな兄弟げんかがあった。知的障害のない発達障害(かなりそうは見えないタイプ)の長男が、ほぼ一方的に知的障害のある自閉症の次男に怒るけんか。

その夜、寝際にそっと長男に『自閉症の僕が跳びはねる理由』を渡してみた。「そう見えないかもしれないけれど次男だって困難を抱えてるんだよ」ということが伝われば、と期待せずに思い……。すると、いつも寝際に何かすることを嫌がる長男が、ずーっと寝どこで熟読していた。

「ふーん?」と思っていたら、

「俺のことが書いてある」

とぽつり。翌日、どういうところが自分のことだと思ったの? と聞いたら、すでに過去のことになっていて「どこだっけなあ」と言いながら『自閉症の僕が跳びはねる理由』をパラパラめくり、頭の中の言葉が消えていってしまうという下りから、

「質問を次々にかぶせられると、俺はわからなくなっちゃう」

という、長男の困難を説明してくれた。

今では健常に見える長男だけど、言葉で言われたときの情報の処理は一つずつしかできないのだろう。しかもそれを周りの人に説明しないので(自分の困難さがよくわからない、周りに説明する意味もつかみにくいというありがちなパターン)、周りは容赦なく普通にたたみかけるし、私もわかりにくい指示とか、矢継ぎ早の質問とか、たぶんよくしている。

長男が、こちらの話を聞かないで「うん」「わかった」というのは、クセというより、もしかしたら処理がおいつかない時の対処法が定着化したのかも、なんてはじめて考えた。

さらに、『自閉症の僕が跳びはねる理由』をめくりながら、俺はここはちょっとそうだけど、あいつ(次男)は違うよね。という話にもなった。長男とそんなことを話し合えるのも、まさに『自閉症の僕が跳びはねる理由』があるからこそだ。これが、この本がベストセラーになった理由でもある。

一冊の本からはじまり、英訳で感動がひろがり、それを取り上げたドキュメンタリー番組でも感動がひろがり、DVDでさらに広がって定着する。メディアの力はとても強いので使い方を間違えないようにしなければいけないけれど、幸せな気持ちになれたり元気になったり、勇気をもらえたりするものが広がるのは、うれしいことだと思う。

 

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川松佳緒里

川松佳緒里(かわまつ・かおり) 東京都自閉症協会 広報部。本業はコピーライター/仏教ライター。 1967年茨城県生まれ。早稲田大学第一文学部の文芸専修卒後、広告代理店および広告制作プロダクション勤務を経て出産を機にフリーに。 2007年よりアルボムッレ・スマナサーラ長老をはじめとする仏教の書籍の編集にも携わる。1歳半検診で要経過観察になった知的障害のない広汎性発達障害(?)の長男と、知的障害をともなう自閉症の次男がいる。