<今国会で絶対に成立する経産省の「電力関連法案」の実態>法案施行の2020年頃までに様々なデメリットを甘受する覚悟を決めよ。


石川和男[NPO法人社会保障経済研究所・理事長]

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“料金値上げ自由化”と“発送電分離”と“新しい役所の創設” ——— 筆者から言わせれば、経済産業省が今国会に提出する電力関連法案の中身とは、そういうものだ。

ごくごく一部の需要家を除き、殆どの一般消費者には、料金面でも安定供給面でもメリットを享受することにはならない。海外の資源国から安定的にエネルギー資源を調達しやすくなるわけでもない。

この法案は、今国会中には成立する。どんなことがあっても絶対に成立する。

役所の一部と学者の一部とマスコミの一部の大願成就といったところだろうか。今はまだ正式な法案提出前で、経産省が与党に対して縷々説明している段階だ。

そこで配布されている資料は膨大だが、その一部をかいつまんで見ていくと、今回の法案は次の3本柱。

  1. 料金値上げ自由化(=料金規制の撤廃)
  2. 発送電分離(=送配電部門の法的分離)
  3. 新しい役所の創設(=電力市場の監視機能の強化)

新しい役所の創設(3)は、官僚の世界の外には殆ど関係ない話なので、どっちでもいい。問題は、料金値上げ自由化(1)と発送電分離(2)。

どんなに反論しようが、この法案は来年度予算案の成立と時をほぼ同じくして必ず成立する。だから我々一般庶民は、この法案が施行される2020年頃までの間に、様々なデメリットを甘受すべく覚悟を決めておかなければならない。

その時になって、ヒドい!と叫んだところで、もう遅いのだ。

では、どのようなデメリットを覚悟しておくべきなのか?———— その答えは欧米諸国にある。今回の電力関連制度変更を検討する際、経産省が参考にしたのは欧米諸国での電力自由化の先行例だ。

筆者がこれまで公表してきた寄稿文(例えば、☆1〜4)に詳しいが、要するに、欧米諸国では電力自由化は、「成功していない先行例」なのだ。特に料金面では、消費者利益は増進どころか毀損していると言わざるを得ない。

そうした実情を知っているにもかかわらず、経産省は“料金値上げ自由化”を強引に進めようとしている。これは実に不可解なことだ。しかし、上述のように、この4月中には電力関連法案は必ず成立する。

一つの具体例を挙げる。

米国の自由化は州ごとに判断が委ねられているのだが、自由化を実施している州(自由化州)とそうでない州(規制州)では、下の資料にあるように、自由化州の方が規制州より電気料金は高い結果となっていることがわかる。

 

 <資料:米国の電気料金(全需要家総合単価〜自由化州と規制州の推移>

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(出所:電力中央研究所)

 

更に、他にも大きな問題がある。

太陽光や風力など再生可能エネルギーを固定価格で優先的に買い取ることで、火力発電が抑えられてしまう。再エネ発電よりも安い火力発電が多く売れないため、火力発電所の利益が減ることは必至だ。既存電力10社が電源バランスを考慮して電源を開発してきた今までとは違い、電源バランスも自由市場に委ねることになると、やがて誰も火力発電所を建設しようとしなくなる。

これは、天候によって発電量が左右される再エネ発電のバックアップ用の火力発電所がなくなるという意味も含めて、非常に深刻な事態をもたらす。つまり、停電リスクが高まることに他ならない。この問題に関しては、後日別の場で詳述していく。

我々は、2020年頃の料金値上げ自由化や発送電分離の施行後、欧米諸国でこれまで経験してきたように、自由化後ほんの一瞬だけ電気料金は下がるかもしれないが、程なく、それまで規制で抑えられていた電気料金よりも高い電気料金を強いられることになる。

電気料金が上がる要因は、他にもある。発送電分離による資金調達コストの上昇はもちろんのこと、2016年に施行される小売全面自由化による燃料調達パワーの劣化や過当競争による余分なコストの発生も、電力コスト上昇圧力となる。

もっとも、今国会で電力関連法案が成立した後は、今回の“電力システム改革”という名の熱病は急速に冷えていくはずだ。2016年の小売全面自由化の施行を経て、2020年の料金値上げ自由化や発送電分離の施行までの間に、役所やマスコミの担当者は何人も入れ替わり、“電力システム改革”という呼び名も忘却の彼方に行ってしまっていることだろう。

日本では、少子高齢社会が更に進むことで、生活コストを極力抑えていく必要性はますます大きくなる。今後、人口減が確実視される中では、今以上の電力自由化を進めるべきなのか、経済活動や成長の基盤である電力の低廉安定供給の継続を採るべきなのか?

―― 私なら迷わず後者だ。

1990年代の大口自由化以降の経過を見ると、既存電力と新電力の発電・小売市場への参入に際して、送電網利用に係る中立性には大きな問題は見当たらない。だから、“送電網利用に係る中立性に疑義がある恐れがある”というだけで発送電分離をゴリ押しする経産省の姿勢には、大いに疑義がある。

国営企業の分割・民営化ならいざ知らず、民間企業の強制的な分離分割には賛同できるはずがない。特に、電力インフラを担う既存電力10社に関しては、法的分離が要らぬ危機を招く危惧が大きい。当面は、今いる電力社員たちの社会的責任感により安定供給は維持されるだろう。

だが、中長期的にはそうした責任感は変質し、利益重視になっていくだろう。制度変更後には“供給力確保義務”があるから大丈夫だ、などと言うのは安易に過ぎる。私は、『電力の品質』が低下することに大きな危機感を持っている。

加えて、利益重視の反作用として、最終的な安定供給や周波数維持の責任を負う送配電部門には、これまで以上にコストがかかり、電気料金値上がりの原因となる恐れがある。

いずれにせよ、役所の一部と学者の一部とマスコミの一部による“電力システム改革熱”は、多くの消費者に今よりも高い電気料金を強いることになる。電気の質は低くなる可能性がある。

今国会で成立する電力関連法案は、そういう悪果をもたらすことになる。我々一般庶民は、それを覚悟しておく必要がある。

最後に、一連の“電力システム改革”という名の制度変更に対して、電力会社は不可解なほどに無抵抗だ。原子力停止問題に端を発した電気料金値上げ認可を盾に、意見を封じ込められているからだと思われる。

電力分野のような経済社会規制に関しては、犯罪取締規制とは全く異なり、規制の変更を検討する際には、規制する側と規制される側の対話や連携・協調が必須だ。しかし、今回の“電力システム改革”論議は、そうした常道から完全に外れていると見受ける。

経産省はもちろんのこと、多くの与党議員も、それを知っているはずなのだが、誰も言わない。こんな不可解かつ不健全な検討プロセスで“自由化神話”ばかりが展開されてきた。このままでは、維持されるべき良きものが失われていくだろう。実に残念だ。

電力会社は適切な形で正論と反論を訴えるべきである。そうしないと、電力システムは改悪されて終わってしまう。

 

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石川和男

石川和男(いしかわ・かずお)NPO法人社会保障経済研究所・理事長。1965年、福岡県生まれ。東京大学工学部卒業。1989年、通商産業省(現経済産業省)入省。エネルギー政策、産業保安政策、産業金融政策、中小企業政策、消費者政策、物流・流通政策などに従事。2007年3月、経済産業省を退官。2008〜09年、内閣官房・国家公務員制度改革本部、東京財団上席研究員、政策研究大学院大学客員教授、政府の規制改革会議、行政刷新会議WGなどの委員を歴任。