<籠池氏VS安倍夫妻>昭恵夫人を隠して籠池氏を嘘つきにする不公平
両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
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最近、生ワイド番組から森友学園問題が消えています。
おそらく会計検査院は法的な瑕疵はないという結論でしょうし、大阪地検も籠池理事長のいくつかの事犯を有罪にして「店じまい」でしょう。
結局のところ、安倍晋三氏の愛国教育思想に強く共鳴し、その尖兵として愛国小学校づくりになりふり構わず突進したドン・キホーテは、彼をもてはやした「右より人」から手のひら返しでうち捨てられ、「ナニワに変わったオッサンがいたなぁ」という記憶だけを残してフェイドアウトして行くのでしょう。
まさに籠池トカゲ一匹だけが尻尾を切り落とされる不公平な物語。森友学園問題とは違法とか不法とかいうよりも「不公平」という問題だと思います。
小学校設立認可と国有地払い下げに森友学園に対する尋常ならざる不公平な配慮があったのでは、という疑いが問題の発端です。
その事実解明の過程でお役所は、関係文書は存在しないと主張しました。ならば関係した職員等を調査しろという要求に、お役所は違法性がないから必要ないと拒否しています。
事実解明に必要かどうかを判断するのがお役人とは思いませんでした。しかし、一方の当事者である籠池理事長は証人喚問されたのですから、お役人が調査されないのは不公平です。
不公平と言えば、戦中、おエライさんの子弟には徴兵を免除される者がいたと言います。森友学園問題における安倍政権の「昭恵夫人隠し」は不公平な扱いという意味で、徴兵逃れと同様の不快感が消えません。
まず寄付金100万円の件です。
当事者である籠池理事長は証人喚問で100万円を昭恵夫人から直接受け取ったと証言しました。一方で昭恵夫人は、お金は渡していないとフェイスブックに書いただけです。これ以外の昭恵夫人および秘書2名の証言はすべて伝聞です。
【参考】<公人の妻は「公人」>安倍昭恵総理夫人にプライバシーはない(https://mediagong.jp/?p=22515)
安倍総理が昭恵夫人の主張を代弁し、首相たる者が国会で明言しているのだから信用せよということのようです。しかし総理の発言だから正しくて、籠池氏の発言だから嘘だということはありません。そんな整理で物事が進められるのは不公平です。
この件について国会で安倍総理がちょっと面白い答弁をしています。
「たった2人きりで渡した、渡さないとなればですね、こちらは、渡していないと言うことについては証明のしょうがないというのは常識、いわば悪魔の証明と言われているわけです。」
安倍総理は籠池氏と昭恵夫人が2人きりになったとお認めになっているかの答弁ですが、昭恵夫人の主張は、夫人付きの秘書2名が常に同席していたので籠池氏と2人きりになったことはない、というものです。
総理の言う「悪魔の証明」という場面ではありませんから、証明のしようがあるのと考えるのが常識です。言い分が対立したら、関係者の話を公平に聞くという日本人なら誰でも考える常識どおりにすれば良いのです。
今回の場合は、籠池氏を国会に呼びつけて懲罰を伴う場で直接言い分を聞きました。ならばもう一方の当事者である昭恵夫人および夫人付き2名からも、第三者が質問できる場で伝聞でない話を聞くのが最低限の公平な対応です。公務員が公開の場で嘘をつくのは身が破滅しかねない高いハードルですから、事実を語る確率が高いはずです。
籠池VS安倍。いまのところどちらの言い分が正しいのかは五分五分なのですから、両者の言い分を公平に聞くことは誰が考えても「いろはのい」です。政府自民党が昭恵婦人や夫人付きを隠し、白黒をつけないまま放置し、籠池氏が嘘をついたかの印象操作で事を終わらせようとするのは大変に不公平です。
すでに何度も書きましたが、谷査恵子さんFAXの件も同様です。
籠池氏が昭恵夫人に留守電を残しました。それを昭恵夫人が無視したのか、あるいは夫人付きの谷査恵子氏に対し籠池氏に連絡するように指示したのか、という話です。政府自民党は、留守電とは別に籠池氏から谷氏に直接手紙で依頼があり、これに谷氏が回答したのがこのFAXで、留守電を無視した昭恵夫人はまったく関係していないとしています。
これについての国会答弁は実に奇妙です。
土生内閣審議官「FAXは、職務以外[註]の行為と致しまして、国民からの紹介にていねいに対応したものでございますので職務外のことでございます。」[註]総理の活動を補助する(昭恵夫人の)活動を支援する(立場である谷氏の)職務の範囲外である。
菅官房長官「谷氏が個人的に出したFAXを個人的に保管していたもので行政文書ではない」
という主張です。ということは、
「経産省から内閣府に出向中で昭恵夫人付きの公務員・谷査恵子さんは、職務時間中に受けたある国民からの谷氏個人への紹介に対し、わざわざ財務省や国交省に問い合わせ、その結果を自らFAX文にまとめ、なぜかこの件と無関係の昭恵夫人に報告した上で、個人的に返信するという作業を職務外の行為としてやり、このFAX文を個人的に保管するというていねいな対応をした。個人的な対応なので文書を残すようなものではないがFAX文だけは残していた。」
というのが政府の説明ということになります。
故立川談志師匠なら、保身のためにここまで屁理屈をこねくり回す役人さんたちを憐れみ、これこそ業の肯定と、バカバカしくも哀しい落語のネタにしたかもしれません。
留守電とFAXの間に昭恵夫人の関与はないという説明のために、奇跡のような無理筋を通そうとするこの話ですが、にもかかわらず昭恵夫人はフェイスブックでの説明に、留守電を聞いたあと谷氏へ指示をしなかったとはひとことも書いていないのです。
さらに安倍総理も国会で、
「(昭恵夫人は)留守電に対し直接は答えてはいない」
とか、
「籠池氏からの手紙によって谷氏が返事をした・・・」
などと昭恵氏の指示の有無に触れることは避け、実に微妙な言い回しをしています。
可能な限りいろいろ調べてみたのですが、証人喚問はもとより、自民党の方々、いつも政権側の情報を多く解説される評論家の方々からも、昭恵夫人が籠池氏からの留守電を聞いた後に谷氏へ指示をしなかった、とするコメントを見つけることはできませんでした。
一方で籠池氏は証人喚問で「留守電を残した後、すぐに谷氏の方から連絡があった」と証言しています。一般に知られた事実の流れ、籠池氏からの手紙の内容、谷氏からの回答FAX文を見ても、籠池氏の言い分に矛盾や不自然さはありません。
【参考】否定している昭恵夫人だから「喚問」の意味がある(https://mediagong.jp/?p=22394)
政権側の無理な説明の連続に、昭恵夫人から谷氏になんらかの指示があったと強く疑われる状況ですが、正確に言えば籠池氏の主張と昭恵夫人の主張の真偽は五分五分です。
この件も100万円寄付金と同じで、昭恵夫人と谷氏ご本人から公開の場で直接話を聞けば事実は見えてきます。なにせ谷査恵子氏は、上司が国会で証言されているように国民からの問合せにていねいにお応えになる方なのですから。
いずれしても、昭恵夫人は関与していないと一方的に言い放つだけで、昭恵夫人も夫人付きも身を隠してしまうのは、真偽五分五分の話を籠池氏が嘘をついているという印象操作で終わらせようとする不公平な対応です。
政府は昭恵夫人を「私人」と定義しました。選挙応援とか、田植えとか、私人が私事に公務員を「秘書」と呼んで随伴させていることになります。さらに夫人付き公務員が私人・昭恵夫人の私事に随伴するのは「公務」と定義されました。公務ですから、私人の私事に随伴しても国費から給料が出ます。
ところが、公務でも交通費は私人・昭恵夫人が支払っているというのですから、もうグダグダで理屈の通りようがありません。まさに安倍政権のためなら、屁理屈ゴリ押し何でもアリ状態です。
すでに政府は森友関連の質問封じに走り、特別委員会設置要求も無視するなど、強引な幕引きに入っています。しかし、4月17日、日テレ系ニュースが伝えた世論調査では、役所が交渉記録を破棄したことについて記録を復元するか関係者に事情を聞くべきとしたのが85%、さらに昭恵夫人は証人喚問や記者会見などで説明すべきが72.5%でした。この問題に関する政権の世論無視ぶりはまるで独裁国家のようです。
よく森友問題の核心は国有地8億円値引き問題であって、昭恵夫人の関与などの枝葉末節に広がりすぎて本質を見失っていると言う方がいます。
しかし100万円寄付や谷氏FAXの問題は、昭恵夫人と安倍総理の関与が疑われ、それが関係者の忖度の源となったとすれば、これこそが問題の核心です。さらに安倍総理が国会議員さえ辞職すると啖呵を切った重大な政局の問題でもあります。とても枝葉末節ではありません。
そのほかにも問題は、政府・自民党の強権的で不公平な対応、稲田防衛相をはじめとする旧憲法回帰の教育勅語礼賛、教育現場での教育勅語の扱い、安倍政権における日本会議人脈の影響、各省庁の恣意的な文書管理と情報隠し、不誠実な国会対応、補助金・助成金審査やさまざまな審議会のあり方、公人・私人問題、公私混同、不可解な影響力行使など総理夫人の位置づけ、懲罰的で一方的な証人喚問の是非などなど・・・。幕引きなどもってのほかでしょう。
もしかしたら、本筋と言われる8億円の値引きより、世の中にとっては数々の枝葉末節の方がはるかに本質的で重大な問題なのではありませんか。
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