<専門店からサワーまで>ポスト・タピオカにレモネードが急浮上?
久松知博[構成作家]
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2019年から始まった第三次ブームのタピオカドリンク。至るところにタピオカスタンドが乱立し、郊外にある中規模な駅でも駅周辺に2、3店舗あることも珍しくない。
350ml程度の内容量で数百円という強気の価格で販売されているが、その原価は100円程度とも言われるので、魅力的なビジネスなのだろう。そんなタピオカドリンクもさすがに供給過剰というか、飽きたというか・・・食傷気味であり、ブームも鎮静化している。これからは淘汰が始まるのだろう。
そんな中でマーケターたちの関心は「ポスト・タピオカ」に移っている。
LINEリサーチが行った調査(スマートフォン上で28万以上に行われた日本全国 6歳以上の男女を対象)では、「タピオカの次に流行る飲み物」としてレモネードが30代では1位、10代と20代では3位を記録した。ちなみに、30代の2位はバナナジュース、3位は日本茶ミルクティ、である。
レモネード? と聞いても日本人にとってはあまり馴染みがないだろう。スポーツ選手がビタミン補給に飲んでいるレモン水といった印象しかないかもしれない。しかし、レモネードは日本以外の国ではかなり一般的な飲み物となっている。アメリカで「国民的ドリンク」といえば、好き嫌いはさておき、誰もが「レモネード!」というはずだ。日本でいえば麦茶のようなポジションだろう。
そもそもレモネードとは、レモン果汁に砂糖やハチミツなどの甘味を加えて冷水で割った果汁飲料。意外にも昭和の喫茶店では定番のメニューとして親しまれていたので、ある世代以上にとっては懐かしい味でもある。しかし、平成・令和の若者からすれば、もはや未知のドリンクだ。
実は、レモネードの日本での再浮上は2、3年前から徐々にはじまっていた、というのがマーケターたちの見解だ。自動販売機でもペットボトル入りの新商品が売られたり、全国にチェーン展開する喫茶店のメニューにも登場するなどじわじわと浸透し始めており、なんと専門店までもがオープンしているというから驚きだ。
レモネード再浮上の先駆けとなったのがレモネード専門店「レモネードbyレモニカ」。2016年3月に石川県金沢市に1号店を出店してから成長を続け、2020年5月末時点で35店舗以上を出店する勢いだ。店舗展開が東北から九州まで広がっているところを見ると、局部的な人気でないことがわかる。
その人気の秘密は、単なるレモネードではなく、カスタマイズが多彩で、イチゴシロップやゆずシロップ、コーラや紅茶を加えるなど、メニューは20種類を超える点だろう。タピオカドリンクの展開と似ている。
昨年の夏頃には、若者の街・原宿に様々なレモネード専門店が並び、連日若者が行列を作っていたことも記憶に新しい。筆者も都内のレモネード専門店をいくつか取材してみたが、確かにラインナップは豊富だ。店内の内装やボトルがオシャレで、「インスタ映え」することも若者人気のポイントだろう。
一方で、筆者のような中年にもレモネードブームはじわじわと浸透している。つい先日、コンビニで「サンキスト(R)レモネード・サワー」という缶入りアルコール飲料を発見した。「レモン・サワー」ではない。「レモネード・サワー」なのだ。
販売元は、あの「JINRO」の会社だ。しかも、オレンジジュースなどで知られる「サンキスト(R)」のブランドを冠している。恐るべきコラボレーションである。懐かしのドリンクがリノベーションされて若者に人気となりつつも、ブームが中高年向けにも波及しているあたりはタピオカドリンクのブームとは違う点だろう。
昨日、今流行りのリモート飲み会に参加した。その時にも「サンキスト(R) レモネード・サワー」を飲んだが、このレモネード・サワーの話でひとしきり盛り上がった。テレビマン、広告マンの職業病である。
なお、肝心の味であるが、フレッシュなレモン果実の甘酸っぱくスッキリとした、どこか懐かしさを感じる「いかにもレモネード」といった風味だ。アルコール度数も4パーセントということで、一般的な「レモンサワー」よりもかなり飲みやすい。(ちなみに、姉妹商品として「オレンジエード・サワー」もあるという)
ところで、「サンキスト(R)レモネード・サワー」に触発されてか、レモネードに関連付けたアルコール飲料は他にも登場している。ただし、それらは「レモネード風味のレモンサワー」のようなものが多い。あくまでも「風味」とか「味」なので、レモネードというわけではないようだ。
マイナス情報は書きたくないので、商品名は差し控えるが、あくまで「レモンサワー」であるレモネード風飲料は、どれもレモンの味やアルコールが強い、という印象だ。ちょっとシビアに書いてしまえば、結局は単なレモンサワーなのだ。レモネード風味とレモネードは何が違うのか、興味のあるところだ。
レモネードはシロップやレモン果汁など、作るのに意外とコストがかかる。オーガニックとか素材品質などに拘ればすぐにコストは上がる。あくまでも筆者の推測だが、人工的に作ったものが「レモネード風味」で、本物のレモネードを利用しているのが「レモネード・サワー」なのかもしれない。
パインアメで知られるパイン株式会社は「皮ごとたべるレモネード」なるお菓子を出しているがここまで来るとよくわからない。とにかく、レモネードがブームを迎えつつあることは間違いなさそうだ。
ところで、ポスト・タピオカとして急浮上しているレモネードであるが、タピオカと違い、アルコール展開ができる。この点を見ても、広い世代をカバーできるので強い。
タピオカ・ドリンクのように甘い味しかない乳飲料と比べれば、はるかに耐久力のある飲み物だ。もしかしたら、レモネードは、息の長いブームどころか、アメリカのように日本でも国民的飲料水として定着するかもしれない。
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