「キングオブコント2015」一番の注目は審査委員長・松本人志52歳だった

エンタメ・芸能

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
***
TBS「キングオブコント2015」の放送を1週間も前から楽しみにしていた次男に放送開始5分前に、「風呂、入っておきなよ」と声をかけても、返事は「最初は総集編だよね」。次男はもう分かっているのだ。
夜7時から始まる3時間のスペシャル番組だが、新聞のテレビ欄を見ると、8時54分から時間が区切ってある。
夜7時台は、ゴールデンタイムだが、世の中の動きが夜の方にずれ込んで、日曜日でもなかなか視聴率が取れない時間帯になった。番組の会議で誰かが「19時台は数字取れないからさあ、20時またぎでがっつり取ろうよ」と発言している様子が目に浮かぶ。
だが、そんなことは単純な番組ファンの次男には言わない。
長い番組になると、総集編などが入ってくるのは予算上しょうがないのだろうか。いつもいつもそういうことになると、見ているものもそれを学習してしまう。心理学方面ではこれを「学習性無力感」というが、どうせ一度見た総集編でしょ、となると見る気力が失せてしまうのである。
2015年10月11日夜7時放送のTBS「キングオブコント2015」の決勝。出場したのは以下の面々。
【よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属】

  • アキナ
  • 藤崎マーケット
  • バンビーノ
  • ジャングルポケット
  • コロコロチキチキペッパーズ

【株式会社ザ・森東所属】

  • さらば青春の光

【松竹芸能所属】

  • うしろシティ

【プロダクション人力舎所属】

  • 巨匠

【ASH&Dコーポレーション所属】

  • ザ・ギース

【ワタナベエンターテインメント所属】

  • ロッチ

10組中5組の出場者が番組の製作協力でもある「吉本」の所属である。笑いの世界の勢力図が分かろうというものだ。東京のコント作家としてはプロダクションも東京で、コントも東京弁でやる純然たる東京ユニットがいないのが、至極、残念である。
筆者はどこかインチキ臭さが漂うグループが好きなのでロッチを応援している。
今回の見ものは、新聞のテレビ欄にも書いてあるように(ということはテレビ制作側も最も面白いと思っている点ということだろう)、

「何と今年の審査員はダウンタウン松本人志 さまぁ〜ず大竹&三村 バナナマン設楽&日村」

である。
ゆっくり風呂に入っていた次男も充分に間に合った7時54分、ダウンタウン浜田雅功(52 歳)のタイトルコールでコンテストが始まった。
こういうコンテストでは登場順が勝敗の分かれ目になることがある。心理学の知見では初頭効果と親近効果というが印象に残りやすいのはトップバッターと最後である。
このバイアスを減らすには全員終わってから最後にまとめて点を出すのではなくユニットが終わる度に点を出す方法がよく、番組もその方法をとっていた。この場合は、逆に最初のユニットに何点つけるかが問題になる。それが基準点になるからだが、松本もしきりにそれを気にしている。
最初に高い点数をつけすぎると以後のユニットがもっと面白かったときに高得点を提示できなくなる。逆にあまり辛い点を出し過ぎると、たとえば70点台だったりすると、番組に景気がつかない。
芸人が芸人を審査することの難しさは、その審査評が自分に返ってくるからだ。
松本は52歳、もう既に大御所であるが、その松本でさえ、浜田に聞かれても批評はほとんどしない。結構辛辣なことを言っても反発を招かないクラスの芸人だが、それでも審査時の発言は苦しそうだ。
さまぁ〜ず大竹(47歳)&三村(48歳)、バナナマン設楽(42歳)&日村(43歳)。みんな結構年を取ったものだ。
一番そつなくしゃべっていたのは設楽、ワイドショーの司会で毒にも薬にもならないことを喋りつけているからだろう、いちいち面白いことをしゃべることを使命にしている芸人は、ああは話せない。
こう言う審査はその時のネタが笑えたかどうかで判断するしかない。将来性みたいなものを加味すると、審査基準がずれてしまい、視聴者の納得を得られなくなる。
かつての「M-1」で、サンドウィッチマンは会場で一番笑いを取っていたのでチャンピオンにする以外にない。将来性なら別のユニットであった。そこはプロがちゃんと見分けてやって、自分の番組に使えば良い。
ただし、芸人審査員にお願いしたいのは会場の客が笑ったことをすべて面白いことだと判断しないことだ。点数は笑いが多かった方に上げて良いから、審査のコメントでフォローしてあげて欲しい。
だから松本が、

「昔の俺ならもっと面白いと思っただろう」

という旨の発言をしていたのは、審査員のコメントとして唯一光っていた。
予選で10個、決勝で5つのネタを見たが、ネタだけで判断すると、最も優れた設定はロッチのタイトル戦を風邪で休もうとするボクサーと、そのお母さんという設定である。
試着室でズボンを穿き終わっていないのにカーテンを開けても良いといってしまう男の設定も、うまい。この設定で入ったらもっと面白くなるのにと思い、残念であった。
ヒントは演じている自分たちが「ここで落ちだ」、と思ったところからコントを始めることである。最近の人は、今回もどのユニットもそうだったが設定フリが長すぎる。設定フリは面白いフリに作り替えるか、フリ自体をカットして笑いから始めるかである。コントは芝居ではない。
芝居ではないが、芝居が下手なのもコントではダメである。
 
 【あわせて読みたい】