AIが席巻するであろう「話し相手市場」とはなにか?
***
AIがこれから本格的に浸透していく市場のなかで、最も巨大で、しかも枯渇しない領域はどこか。筆者は生産性でも、創造性でもなく、それは「話し相手」としての市場であると感じている。

人間は本来、話し相手を選ぶことができない。家族、同僚、友人、偶然居合わせた誰か。そこにあるのは制約と偶然であり、「今この瞬間に、この距離感で、この語り口の相手がほしい」という欲求が満たされることは稀だ。それに対してAIが決定的に異なるのは、できるからこそ、選ばせることができる点にある。能力を絞るのではなく、関係の型を切り分け、切り替え、離脱できるようにする。話し相手市場は、このセレクション可能性によって初めて成立する。
AIは人の心の本質を理解しない。しかし、理解に近い振る舞いの模倣においては、人間を上回る。大規模言語モデルは、人間が理論上は可能でも現実には不可能だった学習経路──膨大な言語事例を矛盾ごと保持し、疲れず、評価せず、感情を乱さず応答する──を実現した。その結果、AIは「理解されていると感じさせる相手」として、極めて魅力的な存在になった。
この市場で人が欲しがる「話し相手の型」は、以下のように整理できる。いずれも推奨ではなく、需要として存在するものである。話し相手タイプの分類を以下にしてみよう。
・茶飲み友達タイプ=馬が合うかどうかがすべて。最も自然だが最も難しく、少しのズレで簡単に嫌われる。
・哲学者タイプ=AIの意見ではなく、特定の哲学者の思考様式を借りる型。選択可能で依存が起きにくい。
・宗教別タイプ=世界観と善悪を固定する語り。市場は大きいが、決定論と神格化の危険が最大。世俗宗教が反乱しており需要は少ないかもしれない
・懺悔室・告解室タイプ=悔い改めたい人の需要は強いが、救済ではなく整理に留めないと依存に転ぶ。宗教とは差異が必要。
・決定論タイプ=人は決めつけを望む。「答えをくれる相手」。短期満足は高いが長期的に有害。
・文学者・詩人タイプ=誤読が価値になる。正解がなく、感情との接続が深い。人気が出やすい。
・スポーツヒーロータイプ=励まし、根性論、勝敗の語彙。嗜好が極端に分かれるため選択制が必須。
・ミュージシャン・シンガータイプ=歌や表現に救われた経験を持つ人向け。ただし深さの維持と著作権が課題。
・機種依存タイプ=利用者が相手を選ばず「このAIだから話す」関係。話し相手AIの本丸。
・カウンセラータイプ(傾聴タイプ)=需要は大きいが方法論が確立していない。質問と誘導の危険を常に孕む。
・記録者・日誌タイプ=解釈せず、判断せず、言葉を仮にまとめて差し出す。最も安全で不可欠。停止する能力(stoppability〜私の造語)を持つ。
・編集者タイプ(認められた派生型)=考えを完成させず、削り、構造だけを見る。依存が起きにくい。
・壁打ち・聞き役タイプ=反論も共感も最小限。需要は巨大だが設計難度が非常に高い。
・異文化翻訳者タイ=価値判断せず、別の文化や文脈でどう見えるかを示す。
・悪魔の代弁者タイプ=あえて反対側に立つ。明示的に選ばれた場合のみ有効。
・無能を装うAIタイプ=賢く見せないことで支配や神格化を防ぐ逆説的安全装置。
ここからわかる結論は、話し相手市場とは、心を理解する市場ではない、ということだ。もちろん、本能を刺激する市場でもない。人が立ち止まり、距離を選び、言葉になる前の思考を安全に置いておける市場である。
AIが席巻するのは、心そのものではない。心のまわりにある、まだ行動になっていない時間である。そしてこの市場は、人の数だけ存在する。現在、経済市場は悪意(強欲資本主義)に覆われて動いている。ここで述べられている話し相手市場は決して悪意に席巻されてはならないことを明記しておく。あらゆる市場は善意で動かしたい。
【あわせて読みたい】
