NHK「クローズアップ現代」のヤラセも問題だが、高市早苗総務相の放送介入も問題
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
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その昔、仕事の先輩から「マスコミは反権力でなければならない」と聞かされたとき、筆者は耳を疑った。「なぜ、反権力だと決めつけなければならないのか。是々非々で良いのではないのか」と。まだ正義感の強かった青年の筆者は思ったのである。
でも今は違う。「マスコミは反権力でなければならない」と思う。
なぜならば、
「権力は必ずや腐敗するからである」
と言い換えても良い。「歴史上腐敗しなかった権力は存在しない」からである。奴隷制の上に成り立っていたギリシアの都市国家も最高権力者の市民は腐敗した。戦後70年、主権在民の資本主義、民主主義の日本国民も腐敗した。
だから正確に言えば「マスコミは常に権力のチェック機関でなければならない」のである。かつての先輩の言った「マスコミは反権力でなければならない」はちょっと誤解を生む表現だったが、言いたいことは上述のようなことだったのであろう。
国民の誰ひとりも与えたわけではないのに、マスコミは「第4の権力」といわれるほどの力を持っている。だから身を律することが必要で、株取引も控えねばならないし、事件事故を起こせば他の仕事をしている人よりは大きく報じられる。
ヤラセは当然ながら厳しく糾弾される。権力を批判する時はきちんと独自の調査報道をして臨まねばならない。
この「第4の権力」は政府や財界などの権力にとっては目障りな存在である。目障りだから、ことあると介入するのだ。
今回、NHK「クローズアップ現代」における過剰報道問題(筆者はヤラセだと判断するが)では、高市早苗総務大臣がNHKを文書で厳重注意した。このことに対し、放送界の自主組織であるBPO放送倫理・番組向上機構は「政府が個別番組の内容に介入することは許されない」と厳しく批判した。
高市大臣はこれに対して「行政指導は法的拘束力があるわけでもなく、あくまでも、要請という形で、受けた側の自主性にゆだねるもの。行政指導について、いきすぎたとも拙速だとも思っていない」と言っている。
こういった発言を醸成してしまう権力はやはりチェックしておかねばならないのである。
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