<決定版・欽ちゃんインタビュー>萩本欽一の財産④素人をプロの芸人のようにおもしろくする方法
高橋秀樹[放送作家]
***
(「萩本欽一インタビュー」その③はこちら)
素人は、ある一瞬だけプロの域を越える笑いを生むことがあるそうだ。それが大将(萩本欽一)の持論である。ただし、放っておいたのでは駄目だ。それは、大将のようなプロに引き出されれねば出てこない。
「素人はね。2つ同時にものをこなすことが出来ないの。3つになるともうむちゃくちゃ。例えば、『スター誕生!』で曲紹介をさせる。『次は山口百恵ちゃん』いいね、これが1つ目。『言葉だけじゃ、なんだから、どうぞって手を前に出そうよ』これが2つ目。『曲はね“としごろ”』って教えておいて、緊張している素人の耳元で関係ない話をする『吊り橋の上って怖いよね。吊り橋の上。僕こないだ行ったの吊り橋の上、立ってらんないよ吊り橋の上なんて、ね、そう思うでしょう』で、時間がどんどん迫ってくる。さあ曲紹介だ、素人をどんと押し出す。するとこうなっちゃう『次は山口百恵ちゃんの吊り橋です。どどうぞう』」
「そのやり方をスタッフは覚えて『欽ちゃんのドンとやってみよう』って手を振り上げるのを素人さんにやらせてた」
「緊張しなくていいですよ。このカメラの向こうでは1000万人くらいの人が見てるかな、だから緊張しなくていいの全然、え、もう回すの、じゃ3秒前2,1,はい!って」
「カメラは、素人が言い終わっても絶対とめちゃダメだって言った、素人はほっと安心した時に一番面白いんだから」
「だから、撮れたんだ『欽ちゃんのドンとやってみよう。これでいいんですか』ってのが」
撮り終わってもカメラは止めるな。これを最近は自分のアイディアのようにして、スタッフを説教する演者がいるが、これは大将が言い出したことだ。
「でもね、素人に恥をかかせちゃいけない。素人のことを、でっかい笑いを取ったスターだって言うふうにしてあげなきゃいけない。テレビを見ている側から言えば、あのおばあちゃん、面白い人だねって、思わせるようにする」
「スタジオはドカンドカン受けるけど、その笑いは、残念なことにテレビを通してみるとそれは、半分くらいしか伝わらない」
「どうしてですか」
「わかんないなあ。劇場でコントやるとね、55号のコントやると、客席が波打つように笑う。劇場の舞台に遠い方の客席から、笑いの波が舞台に押し寄せてくる。その波が収まらないうちに次の笑いの波が来る、笑いの波と波が重なって、演ってる方は気が遠くなる」
見ている方も気が遠くなる。劇場の片隅で55号のコントを観ていた僕は、足元からズンとしびれが脳天に突き抜けていくような感じがしたものだ、競艇で万舟券をとった時の感じに似ている、と言ってもこの比喩はわかってもらえないか。
この感じ、もしも演じられているのが、自分の書いたコントだったりしたら、数倍の強さになる。コントを書いただけでこの気持になるのだから、板の上で演じている55号はもっと大きな気持ちよさなのだろう。
「話は戻りますが、劇場やスタジオでの笑いがテレビを通すと半分しか伝わらない理由、わかりませんか」
「そうだなあ。動きだな、動き。演者の動き、動きで笑わせているのがテレビだと弱くなっちゃう」
これはどういうことなのだろう。
(その⑤につづく)
【あわせて読みたい】