<決定版・欽ちゃんインタビュー>萩本欽一の財産⑱突然笑いの特訓になって冷や汗「徳川初代将軍は家康、8代は吉宗、じゃ9代は?」
高橋秀樹[放送作家]
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2週間、間があいての訪問である。二階の居間に上がると大将(萩本欽一)は突然、僕に聞いた。
「徳川初代将軍は家康、8代は吉宗、じゃ9代は?」
こういう時は間を入れずに答えなければならない、いやいや「0.5」の間だったか。
とにかく早く答える。
「綱吉ですか」
「違う、違う、疑問形で答えちゃダメ」
最悪だ。大将は、質問〈振り〉に対して、どうこなせばいいか、どうこなせば突っ込みはやりやすいのか。そのこなしを僕ができるかどうか試しているのである。僕は芸人ではないから、演じられはしないけれど、理論的にはわかっていなければならない笑いの作家だ。
「徳川初代将軍は家康、8代は吉宗、じゃ9代は?」
「家康です」
「それはただの馬鹿。馬鹿は笑いにはなっても突っ込めない」
「小次郎は……馬鹿ですよね」
「そう、馬鹿。今の笑いはただボケてそれで終わり。笑いが単発。お前に教えてないか」
「習ってません」
「お前の知識の範囲で答えるの」
知識の範囲か、と考えてみる。
「徳川初代将軍は家康、8代は吉宗、じゃ9代は?」
「5代は綱吉で犬を大事にしたんだけどなあ」
「それは聞いてないんだよ。な、それでいい、持ってる知識を総動員して答える。それができるかどうかだ」
「知識がないときはどうすれば」
「考えるんだ、考える。考えると人はどうなる?」
「えーっと、あの〜っ その〜っおわうわ」
「そう声が出る、それから?」
「手が出ます。考えを絞り出そうとして」
「そう、その動きが出れば、突っ込みはいくらでも出来る」
たぶん、このやりとりは、わずか5分くらいだっただろうが、僕は冷や汗が出た。態勢を立て直すために大将に聞く。
「素人も今みたいに突っ込めばいいんですか」
「違う違う。今みたいな振りにこなしで答えられるのはプロだけ。素人は、じゃ9代は?と聞かれると『困る』の動きをしたり『わかりません』と言っちゃう。それは全く笑いにならない」
「そこは理解できます」
「よく僕は、テレビで素人をステージに上げたって言われるけど、そんな覚えはない、素人を玄人のレベルにしてからステージに上げた」
そこまで説明してくれて、大将はこう言った。
「バカバカしいは、大人が笑ってくれないんだよ」
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