<決定版・欽ちゃんインタビュー>萩本欽一の財産⑱突然笑いの特訓になって冷や汗「徳川初代将軍は家康、8代は吉宗、じゃ9代は?」

エンタメ・芸能

高橋秀樹[放送作家]
***
これまでのインタビューはコチラ
2週間、間があいての訪問である。二階の居間に上がると大将(萩本欽一)は突然、僕に聞いた。

「徳川初代将軍は家康、8代は吉宗、じゃ9代は?」

こういう時は間を入れずに答えなければならない、いやいや「0.5」の間だったか。
とにかく早く答える。

「綱吉ですか」

「違う、違う、疑問形で答えちゃダメ」

最悪だ。大将は、質問〈振り〉に対して、どうこなせばいいか、どうこなせば突っ込みはやりやすいのか。そのこなしを僕ができるかどうか試しているのである。僕は芸人ではないから、演じられはしないけれど、理論的にはわかっていなければならない笑いの作家だ。

「徳川初代将軍は家康、8代は吉宗、じゃ9代は?」

「家康です」

「それはただの馬鹿。馬鹿は笑いにはなっても突っ込めない」

「小次郎は……馬鹿ですよね」

「そう、馬鹿。今の笑いはただボケてそれで終わり。笑いが単発。お前に教えてないか」

「習ってません」

「お前の知識の範囲で答えるの」

知識の範囲か、と考えてみる。

「徳川初代将軍は家康、8代は吉宗、じゃ9代は?」

「5代は綱吉で犬を大事にしたんだけどなあ」

「それは聞いてないんだよ。な、それでいい、持ってる知識を総動員して答える。それができるかどうかだ」

「知識がないときはどうすれば」

「考えるんだ、考える。考えると人はどうなる?」

「えーっと、あの〜っ その〜っおわうわ」

「そう声が出る、それから?」

「手が出ます。考えを絞り出そうとして」

「そう、その動きが出れば、突っ込みはいくらでも出来る」

たぶん、このやりとりは、わずか5分くらいだっただろうが、僕は冷や汗が出た。態勢を立て直すために大将に聞く。

「素人も今みたいに突っ込めばいいんですか」

「違う違う。今みたいな振りにこなしで答えられるのはプロだけ。素人は、じゃ9代は?と聞かれると『困る』の動きをしたり『わかりません』と言っちゃう。それは全く笑いにならない」

「そこは理解できます」

「よく僕は、テレビで素人をステージに上げたって言われるけど、そんな覚えはない、素人を玄人のレベルにしてからステージに上げた」

そこまで説明してくれて、大将はこう言った。

「バカバカしいは、大人が笑ってくれないんだよ」

 
【あわせて読みたい】