<キャスターやコメンテイターは必要悪?>どんな話題でも知識はなくても印象批評を述べなければならない役回り
藤沢隆[テレビ・プロデューサー/ディレクター]
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12月19日朝、車を運転しながらTBSラジオ『森本毅郎・スタンバイ』を聴いていたところ、森本さんとコメンテイターである伊藤洋一さん(住信基礎研究所主席研究員)がなにやら興奮気味に怒っていました。
その場面とは、「ニュースズームアップ」というコーナー。「お怒り」になったネタの概要を番組HPから以下に引用します。
「東京女子医大 『中央ICU」』を閉鎖へ」東京女子医大病院で、鎮静剤の「プロポフォール」を投与された後、子ども12人が死亡した問題で、外部の評価委員会はこのうち5人について「投与が死因に影響した可能性を否定できない」とする報告書をまとめました。これを受けて、病院は十分な医療体制が整っていなかったとして、集中治療室をことしいっぱいで閉鎖することを決めました。(番組ホームページより)
このうち2才のお子さんが亡くなった事例について、筆者は以前メディアゴンに「<テレビ朝日「モーニングバード」東京女子医大会見>司会者やコメンテイターの「理解不足」に起因する発言の問題」と題して寄稿したことがありますので、大変興味深く聴きました。
森本、伊藤のお二方が東京女子医大病院に対して「お怒り」になっていたのは概ね以下の点でした。
- 禁止薬を使用するのはおかしい(禁止薬であることを知らなかったとはどういうことか)
- ICU(集中治療室)を閉鎖するというが、ICUのない病院なんて病院の体を為さない
- スタッフ不足なら患者を受け入れるな
- 手術チームとICUスタッフの情報共有が出来ていないのはとんでもない
ごもっともな「お怒り」なのですが、そう単純ではないことに問題の本質があるのではないかとも思います。
もっとも重要な「1.禁止薬を使用するのはおかしい」についてですが、たしかに問題の鎮静剤ポロポフォールは添付文書(取説のようなもの)に、『小児(集中治療における人工呼吸中の鎮静)には使用しないで下さい。』とはっきりと記されています。
しかし“禁忌”とは必ずしも”絶対使用禁止”ではありませんし、使用したら法律違反というわけでもありませんから、放送で単純に”禁止薬”とだけ言うのはどうでしょうか。
事例発生当時、専門の医師たちからは、小児に対し集中治療下における人工呼吸中であってもプロポフォールの使用禁忌事項はあくまで原則のようなもので「医師の判断で使用することはある」という趣旨の発言が少なくありませんでした。
医療過誤裁判でも、“禁忌”とされた薬を使わなかった医師の判断に対し有罪の判断がなされた判例もあるようです。今回の例も、実は薬剤の“禁忌事項”をどう扱うべきなのかという、医師も悩んだり迷ったりしている問題が内在しています。
それはともかく、放送で細かい話をすることが難しいことは分かりますが、単純に「禁止薬」とだけ言い続けてしまうのもリスナーに与える印象がやや不正確になるように感じます。
「2.ICUを閉鎖するというが、ICUのない病院なんて病院の体を為さない」は森本さんと伊藤さんに誤解があるのかもしれません。毎日新聞の記事によれば東京女子医大病院にはICUが8つあります。事実は複数あるICUのうち今回の問題となったICUひとつを閉鎖するというのであって、病院の体をなさなくなるわけではありません。
「3.スタッフ不足なら患者を受け入れるな」は筆者が気になっているところです。亡くなった2才のお子さんが受けた手術は頸部リンパ管腫ピシバニール注入術でした。名前は大仰ですがオデキを取るような簡単な手術だそうです。「採血するていどの簡単な手術」と医者から説明され、事実たった7分で手術は終わったと親御さんは言っています。
それなのに手術後、なぜICUで人工呼吸器につながれ、鎮静のためにポロポフォールを大量投与されなければならなかったのでしょうか。穿った見方というものかもしれませんが、一部のメディアではこんなことが言われています。
大人と違って小さなお子さんはじっとしていられません。動くと点滴などの管が外れてしまいます。常にスタッフが一人のお子さんについているわけにはいかないので、プロポフォールのような鎮静剤でお子さんの動きをとめます。呼吸も止まるので人工呼吸器につなぐのだというのです。たかが7分で終わるオデキの手術に人工呼吸器を使う理由がスタッフ不足というのは…。
森本さん、伊藤さんが『スタッフ不足なら患者を受け入れるな』と「お怒り」になるのもわかりますが、スタッフ不足だらけの日本の病院が患者受け入れを制限したら膨大な医療難民が生まれます。今回の不幸な事例はそういう日本の状況が生んだものかも知れません。
「4.手術チームとICUスタッフの情報共有が出来ていないのはとんでもない」は、お二方がお怒りになるのも当然でしょうね。外部評価委員会の検討結果を受けた東京女子医大病院は院長名で、
- 集中治療室での情報共有の徹底
- 小児心臓術後の鎮静方法の見直し
- 多職種チームによる集中治療管理
- 集中治療室への専任薬剤師の配置
- ハイリスク薬の適正使用の管理
- 医療スタッフへの医薬品の安全使用に関する教育
- 禁忌薬・医薬品適応外使用届の徹底
- 集中治療室管理マニュアルの整備および周知徹底
- インシデント・アクシデント報告の徹底
- 医療安全のための院内ラウンドの実施
に鋭意取り組んでおります。
・・・という文書を公表しています。この1~10までを、これまで天下の東京女子医大病院では、「~が出来ていなかった」という視点で読んでみるとそら怖ろしくなりませんか。森本さん、伊藤さん、お怒りになるのはこちらが本命かも知れませんね。
それにしても、どんな問題だって複雑で「表面からは見えない裏や隠れている事実」があります。それに対して、即興的に、しかもリスナーの興味を引くようにコメントしなければならないキャスターとかコメンテイターとかいう役割。よく考えれば、この役回りは、ホントに大変だな・・・と改めて思わされました。
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