<立川流の次世代が円熟期>師匠・談志が30周年会をやった国立劇場で弟子・立川談春が「30周年の会」
齋藤祐子[神奈川県内公立劇場勤務]
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かつて師匠の立川談志が30周年の一人会を催した国立劇場で、立川談春(48歳)の30周年の会があるという。談志さんの30周年の会は、コロムビアからCDとして発売され、談志さんの芸の円熟する黄金期を記録することとなった。
落語協会を脱退して、落語立川流を創設したのもこのころで、リスクを負っての一門の興行の形を模索しつつ、弟子を育て、自らの落語の精進もしなければならない大変な時期でもあったと思われる。
そんな折、談志30周年と冠した落語会は、立川流の知名度をあげるイベントでもあり、落語家としても精進の想いや決意を示すものでもあったに違いない。
そもそも落語家は、前座修業ののち一人前と認められる二つ目の披露、それから10年程度ののち師匠と呼ばれる格である真打になるときの披露以外に、これといってお祝いをする節目や機会がない。早い人で30歳過ぎ、多くは30代半ばに弟子を取ることのできる師匠の身分となると、あとはもう、自分の師匠にあたる人から、時折アドバイスや小言をもらう以外は、ただただ芸をし、芸を磨く毎日が日常となる。
先ごろ亡くなった米朝さんが、喜寿の節目に大きな会を催し、その枕で、「誰にもよりかかれない独演会、しかも千人以上入る大きな会場での会は、(年を取って)気力が保てなくなるとできなくなる」と語り、以降は大きな会場での独演会を打ち止めにする旨を伝えていた。
そこからすると、気力・体力・技術や精進などの総合的な力を鑑みて、自分の思うような落語が形になり円熟を迎えていく時期は、人にもよろうが、おおむね50代からはじまるようだ。それが体力の衰えとともに芸が枯れつつも味わいを深めて70代半ばまでが非常にいい時期になるということだろうか。
もちろん、心身の健康も必要で、おおむね60代以降は持病の一つや二つはでてくるもので、持病とも共存しつつ、自己の芸を極めていくことになろう。そこからすれば、いま人気のある中堅どころの落語家の多くは50代に差し掛かり、そろそろ自分たちの個性とともに自分の落語を極めていく時期に入ることになる。
談春さんが30周年ツアーの中締めのようなタイミングに国立劇場での会をもつにあたり、師匠・談志が30周年の落語会をおなじ場所ではじめ、立川流を確立させ、自らの黄金期を築いたことを意識しているに違いない。ここから始まる円熟期をぜひ堪能したいと思いつつ、選べるものであるなら、晩年は師匠を見習わず、先ごろ亡くなった米朝さんのようであってほしいと思う。
落語と格闘する姿を最後まで見せ続けた談志さんは、自己の生き方を最後まで貫いたかっこよさとともに、人によっては見ていて辛いということもあったかもしれないから。
ともあれ、筆者は運よく抽選で当たったチケットを手に、談春さんの節目の落語会を見てこようと思う。30周年が、彼の落語の円熟期の始まりになることを祈りつつ。
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