<年金受給160万世帯の「老いと貧困」>語られない「新幹線自殺放火事件」の原因を考える。


山口道宏[ジャーナリスト]

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語られない「新幹線自殺放火事件」の原因を考えてみる。「語られない自殺の原因」は、老いの貧困である。

犯人がけしからないことは言うまでもない。先頃、新幹線内で発生した犯人男性と乗客1人が死亡、10余人が負傷という車内放火自殺事件は安全が売りの我国鉄道史上、思わぬ惨事となった。鉄道会社では早速に本事件を教訓にカメラ設置対策が検討されているという。

事件はその後、巻き添えで犠牲となった女性の弔いを中心にしばらく報じられた。突然の悲劇に家族の悼みは計り知れない。

ところで、報道は「なぜこの男は自殺に至ったのか」を伝えきっていたか。「年金が少ない」を理由の抗議行動というが、その記述部分は少ない。一部報道によれば犯人は、

「年金は月12万円、家賃が4万円、税金、光熱費もあって生活が苦しい」

と日頃から話しており「国会前で自殺したい」といっていたことから覚悟の自殺のようだ。もちろん「年金が少ないから」と誰もが自殺するわけではない。

しかし高齢者の生活保護申請が増えていることは事実で、「老後格差」が深刻化する昨今に、事件は我が国の老いの貧困の実態を浮き上がらせる。現在のところ、我が国の年金受給世帯は約160万世帯、うち半分は高齢者という数字がある。

「年金暮らしには国民健康保険料、介護保険料も大変な支出です。実際の手取りは減るばかりで、最近では、厳しい年金暮らしか生活保護かの二者選択から相談者は増えています」

とは、ベテランの福祉事務所のケースワーカー。今春にはまた年金引き下げがあった。

事件のあった数日後、2020年東京五輪・パラリンピック会場新国立競技場建設費2520億円案が了承された。財布はひとつである。

 

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山口道宏

山口道宏(やまぐち・みちひろ) ジャーナリスト、星槎大学教授、NPO法人シニアテック研究所理事長