<市川染五郎の歌舞伎NEXT「阿弖流為」>劇団☆新感線の「アテルイ」を歌舞伎が逆輸入


齋藤祐子[神奈川県内公立劇場勤務]

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新橋演舞場で上演中の歌舞伎NEXT「阿弖流為」(あてるい)を見に行った。

本作は13年前に染五郎出演で好評を博した「劇団☆新感線」の公演「アテルイ」の歌舞伎化。通常の歌舞伎公演と異なり、キービジュアルになった衣装を着た主役3人のイメージ写真も素晴らしく、チラシやポスターはいまどきの演劇公演のようで期待をそそりチケット争奪戦必至の人気公演となった。

稽古に1か月を費やし、展開も殺陣も劇団☆新感線流にスピーディとあって、これぞ歌舞伎NEXTと、舞台初日はスタンディングオベーションだったという。噂は聞いていいたが予定が立たず、チケット入手に出後れたものの譲ってもらったチケットで観劇することになった。

大型台風直撃で上演も危ぶまれたが、関東をそれたおかげで通常通り上演。舞台は両花道となっており、どちら側の席からも楽しめるようになっている。

衣装は、古代をイメージした独特のもの。スピーディな展開も、歌舞伎の音曲(生音)に加えて、CDなのかロック風の音楽もかぶる。セリフを叫びながらのすさまじい殺陣、というわけで、セリフもマイクを通している。

舞台の作り方、使われる音楽、迫力ある殺陣、展開のスピーディさ、若手の人気役者、染五郎、勘九郎、七之助の主演3人にベテランの亀蔵、萬次郎、彌十郎らが脇を固める。

主演3人のかっこよさは文句なしで、特に七之助の鳥烏帽子は時に乙女の純心を、時に北の神の凄みを感じさせて出色の出来。

美しさが凄みに転じる瞬間を垣間見て、将来が楽しみになる。勘九郎も父勘三郎のおおらかさを感じさせる好演。しかしなんといっても主演の染五郎のアテルイ。とにかくかっこいい役であった。当たり役としてはずみがつくに違いない。

惜しむらくは、音響だろうか。殺陣や激しい動きをしながら、様々な効果音のかぶる中でのセリフはマイクを通すためか聞き取りにくく、特に染五郎のセリフは致命的に割れている。席の場所も悪かったのかもしれないが(3階、サイド席)、数々の名セリフが聞き取れないのは何とも悔しい。

脇をかためるベテラン勢にはさほどセリフの難が感じられなかったことからすると、やはり激しく動きながらのセリフ回しに一考の余地があるということだろうか。昼夜同じ演目でほぼ毎日2回公演、という過酷さも関係しているのか。

ちなみに効果音代わりに効いていた「つけ」(註:歌舞伎用語で立回り、歩行、駆足、物を壊す、投げつける、人を切るなどの俳優の演技に合わせて、舞台上手の前方に大道具方が一人出て、板に拍子木を打ち付けることをいう)は一人ででずっぱりなのだとか。

歌舞伎通の面々が腱鞘炎を心配していたが、これほど激しい現代劇のような舞台、昼夜2公演でそれぞれ上演時間3時間超、かつ1か月公演とは、スタッフも含めた体調管理も大変だろう。

筆者としては、サブカル出身でいまや商用演劇の雄として成功している「劇団☆新感線」が歌舞伎に逆輸入されたこと自体が新鮮で、まさに隔世の感がある。

もっとも染五郎や勘九郎の世代からすれば、「劇団☆新感線」の彼らが、大阪から東京に進出し下北沢や新宿の小さな劇場でSFやファンタジー風の演目を上演して人気を博していった時代そのものを知らないのだろうが。

この日、満場の観客がスタンディングになったカーテンコール。歌舞伎NEXTのシリーズの手ごたえとともに、少々の課題も浮き彫りにしたといえよう。

 

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齋藤祐子

齋藤祐子(さいとう・ゆうこ) 1984年、筑波大学卒。現在、文化施設に勤務。文化政策や現代美術、落語等の分野に関心が深い。