<虚像のSMAPから「等身大」のSMAPへ>ドラマ「アイムホーム」が踏み入れた「父親を演じるキムタク」という禁断の領域
黒田麻衣子[国語教師(専門・平安文学)]
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木村拓哉とテレビ朝日の初タッグ連続ドラマ『アイムホーム』(木曜21時~)は、「父親を演じるキムタク」という禁断の領域に手を出した。
前妻との間には高校生の娘もいるという設定で、初回では記憶をなくした久(木村拓哉)が、娘の下着にアイロンを当てているところを娘に見つかって叱責されるという、なんともシュールな場面も描かれたが、意外と反応は薄かった。
SMAPは、メンバー全員がアラフォーとなって、今や「アイドル」ではなく「SMAP」という新しいジャンルだとまで言わしめている唯一無二の存在である。30代前半のSMAPは、アイドルという既存の仮面を被り続けることに苦労していたように思う。
そんな中で、リーダーの中居正広は自らの30代を「ファンを突き放す10年」と位置づけ、ファンに対しては徹底してクールに振る舞ったという。メディアでは女の子の話もした。
背景には、明石家さんまさんからのアドバイスがあったらしい。曰く、長らく芸能界で生き残るためには、女性問題もすべてひっくるめてファンに愛してもらう必要があるのだ、と。かくして、SMAPは、20代、30代という時期を乗り越え、40代になってなお、コンサートで連日ドームを満席にさせる、唯一無二の存在へと昇華した。
もはや、誰も歩いたことのない道を歩いている。
今年に入って、SMAPはまた新たなステージに入ろうとしている。メンバーの稲垣吾郎と草彅剛が相次いで半同居のオジさんの存在を明かした。
先日のフジテレビ『SMAP×SMAP』で行われた大運動会では、100m走でSMAPの5人がガチンコ勝負をし、稲垣、草彅、香取が木村に勝つという結果を堂々と放送してみせた。今までなら、ぜったいに木村拓哉がイチバンでテープを切っていたところだ。
ジャニーズの後輩である嵐は「等身大の男の子」的な魅力でファンを増やしたが、長くトップを走ってきたSMAPは、強烈なプロ意識のもと、「何をやっても完璧な木村拓哉」をメンバー全員で守り抜いてきた。それをいま、自分たち自身で崩そうとしている。
ある意味で、やっと、「虚像のSMAP」から「等身大の自分たち」に脱皮し始めたのではないだろうか。昨年の『FNS27時間テレビ』で、稀代のエンターテイナー達に「SMAPはどのジャンルにも属さない、SMAPはSMAPという一つのジャンル」と言わしめたことが、彼らの心に大きな変革をもたらしたのではないかと想像する。
今回のドラマは、そんなSMAPの変化の延長線上にあった気がする。木村拓哉が「ざ☆キムタク」の鎧を脱いで、かっこ悪い姿を惜しみなく披露している。
いつも威風堂々としていたキムタクが、おどおどと戸惑っている様は、見慣れないはずなのにとても自然で、するっと私たちの心に入ってきた。ただただ、ひたむきで一生懸命に今を生きようとする久を、ていねいに演じている木村は、もはやアイドルでは無く、1人の俳優だった。
ストーリーもしっかりしているこのドラマ、木村の新境地を最後までしっかりと見届けたいと思ったのは、筆者だけではないはずだ。
なんといっても、木村拓哉は「同い年の星」なのだから。お父さん世代のスターが高倉健なら、筆者世代のスターは間違いなくSMAPだ。好きとかキライとか、そんな感情を超越したところで輝いているのがスターなのだ。
だから、とくに同世代の人には見て欲しい。『アイムホーム』での、木村の新境地を。
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