<NHKの使命と誇りはどこに?>「自席発言」お粗末な日本語の担い手は今すぐニュースの現場から去れ


榛葉健[ テレビプロデューサー/ドキュメンタリー映画監督]

***

長年テレビやラジオのニュースの原稿を書いてきた一人として、はっきり書く。

「わざわざニュースを分かりにくくする言い換えなど、あり得ない」。

先日の参議院で、安保法案に関する野党の質問中に、安倍首相が「どうでもいいじゃないか」などとヤジを飛ばしたことについて、NHKニュースは不思議な言葉で伝えた。

「参院安保委 首相の『自席発言』に民主が抗議」

ん?? 「自席発言」とは、どうやら「ヤジ」のことらしい。

どこの辞書に「自席発言」という言葉があるだろう? 「不規則発言」ならまだ分かる。だが「自席発言」という「造語」では、首相はあたかも正当な手順に基づいて発言したものといったニュアンスが出て、そもそも何の問題を伝えるニュースか分からなくなる。

NHK広報はネットメディアの取材に対して、

「ニュース原稿の表現については、国会論戦のやりとりなどもふまえ、適宜、適切な用語を使っています」

と説明したという。これを放送のプロが本気で言っているなら、そういう人たちは、放送界から去った方がいい。

日本の国会の場合、正規の発言であれば、議会録(議事録と速記録といったもの)に残る。不規則発言やヤジなら、普通は反映されない。

安倍首相の「どうでもいいじゃないか」発言は、さて、「どちら」か?

首相は直後に委員長からの注意を受けて、

「いずれにしましても、私の『不正規での発言』は撤回いたします」

と言っている。つまり自らヤジと認め、発言を議会録に残らないように要請している。

首相自身は、

「どうでもいいじゃないか、とは言っていない」

と釈明したが、自ら認めた「ヤジ」をNHKが「自席発言」と言い換えてニュアンスを変えたことは、「適切な用語」とは全く言えない誤報、虚報の類だ。

NHK広報は、

「安倍政権への配慮などは『まったくない』」

とも回答したというが、こんな「この世に存在しない分かりにくい表現」をわざわざした理由は、「配慮」以外にない。もしくは、ニュース担当者の日本語の能力が、よほど欠落しているかのどちらかしかない。

NHKは日ごろから、放送用語の辞書まで作って「正しい日本語」を使うことを率先してきた局だ。それが、誰も使ったことのない言葉を生み出して、事実を捻じ曲げるとは、もはや報道機関として落第だ。

「ら抜き言葉」や「ギャル語」などは使わず、美しい日本語を大切にしてきた放送局が、若者言葉以上に「怪しい言葉」を作ってしまった。

その意味で、こんな意味の通らない原稿を放送したデスクや幹部、そして「おかしな日本語」を読むのを拒否しなかったアナウンサーは、正しい日本語に重きを置いてきたNHKにとって職務不適格者と言える。

今すぐニュースの現場から去るべきお粗末な日本語の担い手たちだ。

NHKは税金で賄われる国営放送ではない。受信料に支えられ、国民の最大多数の利益や幸福に応える、公共の放送局であり、特定の政治家たちの代弁機関ではない。

怪しいニュースを書くNHKの一部の報道担当者に問いたい。あなた方の責務は、受信料を支払っている国民全体の負託に応えることではないのか?

そして、このような放送に悔しい思いで耐えている心あるNHK職員の皆さんには、ぜひ公共放送の使命を誇りとして、自立した放送を取り戻す力になってほしい。

NHKを全否定してはいけない。その中に巣食う、「膿み」を出すことが大切だ。

 

【あわせて読みたい】

The following two tabs change content below.

榛葉 健

榛葉健(しば・たけし) テレビプロデューサー、ドキュメンタリー映画監督 1963年東京生まれ。1987年、在阪民放局入社。さまざまなジャンルで幅広くドキュメンタリーを制作し、日本テレビ技術協会賞、坂田記念ジャーナリズム賞などを受賞。世界最高峰チョモランマの取材では、登山家たちが放置する大量のゴミを世界のテレビで初めて告発。1995年以降、阪神・淡路大震災関連のドキュメンタリー14本を制作。そのうち『with…若き女性美術作家の生涯』は、「日本賞・ユニセフ賞」「アジアテレビ賞」など数々の国際賞を受賞。東日本大震災の発生後は、私費で宮城県南三陸町や気仙沼市などに通い続け、映画「うたごころ」シリーズを制作。全国の劇場をはじめ各地で上映の輪が広がっている。