<泣けない「あの花」>アニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」を劣化させたドラマ版リメイク

映画・舞台・音楽

河内まりえ[東京作家大学]

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テレビの深夜放送で多くの視聴者を嗚咽させた「あの伝説のアニメ」がフジテレビでドラマ化された。「アニメの実写ドラマ化」と聞くと何だか嫌な予感がする。それが名作アニメとなればなおさらだ。しかし、9月21日の放送を観た。
その伝説のアニメとは、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(以下「あの花」)である。2011年にテレビで放送され、2013年に劇場版が公開された。
ストーリーはこうだ。
ある夏の日、高校に行かないでゲームをしている宿海仁太「じんたん」の前に、事故で死んだはずの幼なじみ本間芽衣子「めんま」が現れる。「お願いを叶えてほしい」と頼まれたじんたんは、戸惑いながらも当時の幼なじみ四人と再会し、めんまのお願いを叶えるために奮闘する。
幼なじみとはめんまの死がきっかけで疎遠になっているが、めんまが現れたことをきっかけにまた集まるようになる。それぞれが、めんまの死に対する葛藤を抱え苦しんでいた。
筆者は初めて「あの花」を観たときに、「本当はみんなとずっと一緒にいたかった」というめんまの思いに触れて嗚咽が止まらなかった。
テレビ版、劇場版、そして今回のドラマ版は共にストーリーは同じ。ところが(やっぱりというべきか)残念なことに、ドラマ版は、その上辺のストーリーだけをなぞっているように見えた。アニメのキャラクターに雰囲気の似ている役者を集め、同じセリフを言わせる。
ただ、それだけ。
アニメとドラマは違う。アニメのキャラクターにいくら似せても役者は生身の存在だから、アニメとの違いが際立ってしまう。アニメのファンにドラマになってもおもしろいと思わせないと失敗である。それには「ドラマゆえのおもしろさ」を追加する必要がある。
例えば、めんまのために花火を打ち上げるシーンがあるのだが、アニメではあまり迫力を感じられなかった。ドラマでは、むしろアニメでは出せない迫力のある映像にするべきだったように思う。
だが、実際は何ともいえない人工的な色が空に広がっただけの残念な映像になっていた。しかも、一瞬で終わってしまい、重要なシーンであるのにも関わらず、全く印象に残らない。「号泣必至」とも言われる「あの花」にもかかわらず、泣けない。
筆者は一視聴者として、すでに完成された「あの花」の安易なドラマ化には反対だった。しかし、やはりファンとしては、それでもドラマ版は見てしまう。しかし、その結果として、視聴者の期待を裏切った罪は大きい。
何よりも、泣けない「あの花」なんて、「あの花」じゃない。

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