<あっという間の4時間半>市川猿之助が漫画「ワンピース」をスーパー歌舞伎で再現


齋藤祐子[神奈川県内公立劇場勤務]

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終演しても、主題歌(ゆずの北川悠仁が提供)の乗りのいいリフレインが耳に残り、脱力感さえあった。あまりにも盛りだくさん、それでいて長さは微塵も感じないあっという間の4時間半だった。

新橋演舞場で上演中の市川猿之助のスーパー歌舞伎Ⅱ「ワンピース」を見終わったあとのこれが感想である。

とにかくあとからあとから仕掛けが続き、芝居の山場が続く。

開演時間ギリギリにつき、すでに舞台ははじまっているが、緞帳に、まずは漫画「ワンピース」の作品世界を解説する字幕が流れている。席に滑り込んで場内に目が慣れるのを待つ。

最初のうちこそ、この漫画作品を知らない人でも楽しめるように、せりふと装置だけではわかりにくい背景を説明する「ちょっと失礼します」的な解説セリフがでてくるが、中盤からはそれも一切なし、作品世界に引き込まれて、海賊ルフィ(猿之助)の息をもつかせぬ冒険と誰からも好かれるそのまっすぐな気性に魅了される。

しかしまあ、やりすぎ!と思うほどの派手な仕掛けの数々。
序盤からがんがん使うプロジェクションマッピング。プロジェクターの映像が駆使されまくるのは現代劇さながら。

早変わり(猿之助は3役)、殺陣のシーンをさらに盛り上げる本水(舞台上に本当の滝・・)、おなじみの宙乗りはサーフボードで(バランスが取りにくい、とインタビューで読んだが)、極めつけは宙乗り中のボディボードの決めポーズ、これがやけに決まっている。

宙乗りの時に一緒に出てくる巨大クジラのバルーンは客席中央にまでワイヤーで連れだされて、うわあ、というどよめきと歓声。おかまのお姉さま方のきもかわいいラインダンスと、そして宙乗りシーンでの客席での乱舞・・

のりのいい主題歌とともに、多くのお客さんが立ちあがってのりのりで手拍子をする(ちなみに、お姉さまがたの網タイツはスパッツに網目模様がかかれているのを目視確認)。

特別にワンピースの登場人物のはいった定式幕をはじめ、2幕目が終わったあとにでてくる「To be continue」の看板、おかまの地下帝国のムーラン・ルージュ風?のキャバレー的舞台セットの派手派手さなどは、歌舞伎でここまで、とくらくらする。

一方で殺陣のシーンでの派手なとんぼ(返り)をはじめ、ルフィの手が伸びるシーンを映像以外に、黒子の手をつなげて表現するなど、伝統の技ももちろんそこかしこにある。

もともと歌舞伎もシェイクスピアの時代の芝居小屋も、客に受けたシーンを膨らませ、アドリブを多用したという「受けるが勝ち」の世界。これが本来の姿なのかもしれない。

麦わらのルフィ役ほか2役を演じるエネルギッシュな猿之助をはじめ、役者の誰もが殺陣やせりふや決めポーズもばっちり決まり、白髭役の右近も重厚に伝説の海賊頭を演じる。

この右近のスケール感・重厚感はしっかりと芝居全体を引き締めてさすがだ。脇もみな芝居はうまく、というより下手な人がいない。
なにより、現代劇だろうがファンタジーだろうが、宙乗りも楽々こなし(ているように見える)、それどころか明らかに楽しんでいるように見えながら、無駄な動きがひとつもないのに所作がぬきんでてきれいなのは猿之助さんならではか。

歌舞伎好きの知り合いには単に見に行くとはいえず、「怖いもの見たさ」などとひねった言い方をしては見たが、なんのなんの。客席にいた団体の女子高生はじめ、老若男女みな、楽しそうに盛り上がり、終わると放心しながらも興奮冷めやらずに話をしながら出ていくのを見れば、これこそ当代のスーパー歌舞伎、と思えてくる。

本道の歌舞伎からすれば際物かもしれないけれど、スーパー歌舞伎はエンタメだもの。先代の猿之助さんが、スケールの大きな歴史ものを題材に宙乗りで話題をさらい、歌舞伎の新しいジャンルを切り開き、多くの「普段歌舞伎座に足を運ばない普通の人たち」の足を運ばせ、ひとつのブームにまでなったことを思えば、当代の若い(かつ、うまい)猿之助がこのくらいはじけてもいいのだろう。

見て損はない、と久々に押しっぷりよく薦められる舞台作品である。

 

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齋藤祐子

齋藤祐子(さいとう・ゆうこ) 1984年、筑波大学卒。現在、文化施設に勤務。文化政策や現代美術、落語等の分野に関心が深い。