<論文投稿に踏み切った動機>小保方手記「あの日」と須田記者「捏造の科学者」をあわせ読んでみる

社会・メディア

高橋秀樹[日本放送作家協会・常務理事/日本認知心理学会・心理学史研究会会員]
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小保方晴子氏の手記「あの日」(講談社)では、「STAP細胞がある」ことを否定していない。筆者が最も分からないのは、研究者の目にさらされれば、バレると分かっている論文の投稿に、なぜ踏み切ったのか、である。
手記の中で「殺意さえ感じられる取材名目のメールをよこした」と名指しされている毎日新聞・須田桃子記者。しかし、須田氏の「捏造の科学者 STAP細胞事件」(文藝春秋)を読むと、様々な追跡調査から「STAP細胞の存在は否定されている」ことが分かる。
改めて言うが、「なぜ、バレると分かっている論文投稿」に踏み切ったのか? 少しでもサイエンスを齧っていれば、「バレる仕組み」はわかるはずだ。
少なくとも、理研のユニットリーダー職に採用された小保方氏であれば、温度差の大小はあるにせよ、アカデミズムの仕組みを知らぬはずはあるまい。
筆者が最も興味のあるのは小保方氏が投稿に踏み切った、いわゆる「動機」である。当該書でも、そこには言及がない。
結局こう考えるしかない。小保方晴子氏は、自分の論文から「何か」がバレるとは微塵も思っていなかったのではないか、ということだ。不正、捏造の認識さえ一片も脳裏に去来しなかったのではないか。
そうなると、これは、研究不正とは質の違う問題が浮かび上がってくるが、そのことについては小保方氏自身に会ってみないかぎり、おろそかに判断できない問題だ。
しかしながら、小保方氏の手記「あの日」自体が、ある種の科学者にとっては非常に興味深い資料となり得ると言うことだけはたしかだ。
 
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