小津安二郎『東京物語』に見る「結局、人生はひとりぼっち」

映画・舞台・音楽

茂木健一郎[脳科学者]

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小津安二郎の『東京物語』(1953)は、英国の映画専門家の投票で世界の映画の歴代一位に選ばれた名作である。この映画は、共感を通した他者とのつながりと、その一方での違和感、断絶を描いている点において、人間存在の本質に迫っている。

『東京物語』の笠智衆が演じる老父は、他人に対するやさしい気づかいを持ち、共感能力を持っている。そんな老父が、伴侶を失う過程で、子どもたちとの行き違いや、人生のほろ苦さを経験するストーリーである。

他人に対するやさしさや気づかい、善意があったとしても、結局、人と人とはすれ違うことがある。『東京物語』の結論は、「結局、人生はひとりぼっち」というさびしいものだが、その諦念(ていねん:道理をさとる心。あきらめの気持ち)に至る共感とすれ違いの物語を丹念に描いているからこそ、歴史に残る傑作となっているのだ。

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母にせよ、恋人にせよ、共感というもので結びついたきずなは大切だが、その安全基地も結局、人生の孤独という本質的な問題を救ってはくれない。ほんものの芸術は、そのあたりの機微をリアルに描く。

結局、人生はひとりぼっちだが、その厳しい認識から出発して、あまり期待することなく、人に対して善意と気づかいで向きあえば、時折心のふれあいをもたらしてくれる。その感動が『東京物語』の根底にある。

『諦念』は、人間関係におけるもっとも成熟した感情、態度であって、それは他者との共感と、その一方でのすれ違いという人生の本質に対する、リアルな認識そのものなのである。

(本記事は、著者のTwitterを元にした編集・転載記事です)

 

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