<「発達障害本の氾濫」に警鐘>無責任な科学者のトンデモ本に注意


高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事/日本自閉症スペクトラム学会会員]

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最近、発達障害の本が氾濫している。「発達障害」とは主に自閉症スペクトラム、注意欠如多動性障害、学習障害の3つである。

発達障害の社会に認知が上がるのは良いことだが、間違った認知が広がっては困る。そして、これらの本の内容も玉石混淆だ。もちろん多くが「きちんとした内容の本」である。しかしながら、中には「トンデモ本」と呼ぶしかないようなもがあることもまた事実である。

たとえば、ADHDは、日本語で「注意欠如多動性障害」。注意「欠陥」ではなくて「欠如」と表記しようという話が専門家の中で同意を得つつあるが、それを、「欠陥」のままで使っている著者がまだいる。

こういう本は中身にも要注意だ。ただし、「欠陥」表記でいいではないか、と言う主張もあるので、「欠陥」のままで書いていながら、中身の主張は妥当であると言う本もあるからややこしい。

たとえば「しょうがい」も「障害」か「障碍」か「障がい」か、どれを使うかは統一見解はなく著者の好みになっている。

まず、自閉症スペクトラム(Autism spectrum disorder=ASDと略称されることがある)の発症メカニズムについて述べておこう。

「先天性の脳機能障害とされる。しかし、どこが、どのように障がいを構成しているのかについては、いろいろな研究が成されてはいるが、まだ解明されていない」

と言う理解が妥当である。これを「遺伝子因」と呼ぶことにする。

【参考】<短絡的な新書に異議!>アスペルガー症候群の犯罪率が一般人より高いということは証明されていない

自閉症は、1943年に初めてその症例が報告された。当時は、自閉症は「母原病」であると認識されたが、それはただの憶測である。ある有力な自閉症研究者が母親の愛情不足が原因だとして、冷たい母親「冷蔵庫マザー」という言葉を作った。

そのため、自閉症児を持つ母親を孤立させ、かえって対策を妨げる結果になったという悪影響が指摘された。この説を唱える専門家は現在は、ほとんどいない。これはいわば「心因」である。

それから水銀などの重金属が原因だとする説がある。たとえばチメロサールと言う名の有機水銀化合物である。チメロサールは防腐剤として三種混合ワクチンなどの予防接種時に乳幼児の体内に入る。これが自閉症を発症させるという報告がかつてアメリカであった。母親たちはワクチンを忌避した。そのため、ワクチン接種を受けない弊害が広がった。

しかし、水銀が自閉症の原因となるか否かについては、現在は、ほぼ否定的されているといってもよい。日本小児神経学会、日本小児精神神経学会、日本小児心身医学会は三学会共同の見解として、

「自閉症の原因が水銀中毒であるということを積極的に肯定する根拠は乏しい」

「自閉症とチロメサール含有ワクチンとの間に明確な関連性は見出されていない」

という声明を出している。現在はチメロサールを含まないワクチンが接種されているので、まもなく。正しい疫学的調査が出るはずである。これを「環境因」と呼んでおく。

そして、 この「遺伝子因」と「心因」と「環境因」という3つの兼ね合いが難しい。

【参考】<医者が書いた科学的根拠の乏しい本に疑問>自閉症が水銀で発症するというのは「証明されていない」

発達障害は「遺伝子因」なので「治ることはない」という断定は間違いである。発達障害の子どもは発達する。ゆっくりだが発達する。適切な療育をすればさらに発達することが多い。

発達障害の発症因として「心因」はない、と言う断定も間違いである。日本有数の研究者である杉山登志郎医師は「虐待が自閉症のスイッチを入れることがあるのではないか」という言い回しで、「心因」を指摘する。「冷蔵庫マザー」が否定されたことで、母親は、今は父親も育児参加するのが当然の時代だから父親もだが、冷たい育て方をしたと言うレッテルから解放された。

ただし、このことがある種のタブーになってしまい、「心因」の研究に進むのは勇気が要る傾向にあることは確かだ。ただし、早期教育、ビデオゲーム、テレビの見せすぎと言ったことが自閉症の原因になるという有意な研究はない。

「環境因」を唱える分野にトンデモ本が多いというのは、一日に一冊のペースで発達障害関連本を読んでいる筆者の実感である。筆者の印象ではいたずらに物質名を挙げて恐怖を煽ることの弊害が大きいと思う。統計検定をするにはデータの量が少なすぎるのである。

現在の所、妥当な発達障害理解を得るためのHPとしては次のものを上げておく。

一般社団法人 日本自閉症協会・http://www.autism.or.jp/

東京都自閉症協会・http://www.autism.jp/

一般社団法人 日本LD学会・http://www.jald.or.jp/

日本ADHD学会・http://www.js-adhd.org/

一般社団法人・日本発達障害ネットワーク http://jddnet.jp/

 

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