<制限が多過ぎる不可解な「ガス全面自由化」> 「マンション一括供給」で電気は安くできるけどガスはできない?


石川和男[NPO法人社会保障経済研究所・理事長]

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日本経済新聞を始めとした殆どの主要メディアが絶賛する「電力小売全面自由化」が今月1日に始まった。その日の日経新聞朝刊は、社説で次のように書いている。

「それぞれの地域の電力会社からしか電気を買えなかった一般家庭や小規模店舗も、自由に電力会社を選べるようになった。全国10地域の電力会社に供給を独占させる体制の原型が1951年に誕生して以来、65年ぶりの変革である。多様な事業者による料金やサービスの競争を、成長への活力につなげていきたい」

筆者に言わせれば「それぞれの地域の電力会社からしか電気を買えなかった」とか、「65年ぶりの変革」とか、全然ピンと来ない。既に1990年代半ば頃から、様々な制度改革は行われてきたからだ。歴史を知らずに絶賛し過ぎだ。

では実際どのくらいの人々が、電力の購入先を今の大手電力会社から「スイッチング(切り替え)」をするつもりなのだろうか?

経済産業省の認可法人である電力広域的運営推進機関が3月25日24時時点までのスイッチングの申込み状況を集計したところ、全国計で約37.8万件であった。

全国の世帯数は5641万(2015年1月1日現在;総務省調査)ので、今のところ、切替え件数は全体の0.7%弱となる計算。

【参考】経産省は電力業界に厳しく、ガス業界に甘い

【参考】無理すぎる新目標「温暖化ガス2050年80%削減」

さて、話は電気ではなく、ガス。

来年4月に「ガス小売全面自由化」が予定される。だが、全面自由化と言いつつも、不可解で不自由なルールが多数残存する可能性が極めて高い。その最たる例の一つを先の拙稿『制限が多過ぎる不可解な“ガス全面自由化”〜電力・石油会社の直接ガス小売は許されない』で提起したが、本稿はその第2弾。

電力については、マンションに住んでいる各世帯は、それぞれ電力会社と契約(低圧契約)を結んでいる。こうしたマンション需要に関して電気料金が安くなる場合がある。いわゆる「マンション一括受電サービス」と言われる形態で、今月1日から始まった電力小売全面自由化とは関係なく、かなり以前からこの形態でのマンション世帯向け電力供給に参入している新電力は少なくない。

これは、その新電力がマンション1棟分の電気を一括購入することで、オフィスビルやホテルと同じ契約(高圧契約)に変更し、電気料金単価を安くすることで、その差額により電気料金を削減するというビジネスモデル。

一方、ガスについては、マンションに住んでいる各世帯は、それぞれガス会社と契約(小口契約)を結んでいる。これを、新規ガス小売会社がマンション1棟分のガスを一括購入する契約(大口契約)にすることで、ガス料金単価を安くすることは十分に可能である。

しかし、ガス供給の約款は規制されており、マンション各1戸を1需要場所とする旨、規定されている。即ち、マンション世帯も各戸に個別供給でなければならないという規制が残存している。

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この規制に関しては、来年4月のガス小売全面自由化に際しても、自由化される予定は今のところない。これも実に不可解な話だ。

電力小売全面自由化では、役所は、電力業界に対して異常に厳しく臨んできた。だが、ガス小売全面自由化では、役所は、ガス業界に対して妙に甘い態度で臨んでいる。そのあたりの事情がもし明かされたら、筆者にはよく理解できるが、一般には全く通用しないだろう。不公平極まりない・・・。

 

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石川和男

石川和男(いしかわ・かずお)NPO法人社会保障経済研究所・理事長。1965年、福岡県生まれ。東京大学工学部卒業。1989年、通商産業省(現経済産業省)入省。エネルギー政策、産業保安政策、産業金融政策、中小企業政策、消費者政策、物流・流通政策などに従事。2007年3月、経済産業省を退官。2008〜09年、内閣官房・国家公務員制度改革本部、東京財団上席研究員、政策研究大学院大学客員教授、政府の規制改革会議、行政刷新会議WGなどの委員を歴任。