<立川談志生誕80周年>カリスマ亡きあとの立川流はレジェンドを継承できるか?

エンタメ・芸能

齋藤祐子[神奈川県内公立劇場勤務]
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立川談志さん亡き後の追悼特集や追悼番組はすっかり落ち着いた感がある。今年の生誕80周年に向けて、多少番組がふえてくるのかもしれないが、この1か月の間に2本、BSの番組で特集があった。
また年明けから有料放送のWOWWOWで、談志十八番の演目や未公開映像を連続10回放送するとしている(5回目は5月21日放映)。BSやWOWWOWなので告知もそれほど多くなく、未見の人も多いかもしれない。
有料放送は置くとして、そのほかの特番のうち1本はBSジャパン「武田鉄矢の昭和は輝いていた」の談志特集。2時間拡大スペシャルで4月15日の放映。
幼いころの談志が夢中になった落語、柳家小さんへの入門、売れっ子の2つ目時代と結婚、政界への進出と引退、落語協会の脱退と立川流創設、そして落語との格闘と円熟期、喉頭がんとの闘いから死まで・・・とテンポよく進む。
ゲストは談志さんの長女の弓子さん、親友の毒蝮三太夫、弟子の立川談春だったが、家族との知られざるエピソード、結婚の際の秘話、弟子から見た談志の落語の凄さ(テクニックや特徴まで)とバランスの良いコメントでその生涯を昭和史にあわせて手際よくまとめていた。
もう1本はBS朝日「ザ・ドキュメンタリー 天才落語家・立川談志~異端と呼ばれた男の素顔」。こちらは弟子の立川志の輔・志らく、談志さんにかわいがられていたコメディアン爆笑問題・太田光、親友の石原慎太郎・毒蝮三太夫へのインタビューで構成。
特に「立川流の最高傑作」と談志が命名した志の輔は、寄席を知らない立川流の実験第1号と呼ばれ、それまでにない様々な工夫でゼロから切り開いた自らの落語を語って迫力がある。
この番組でも談志さんの生涯を、入門、売れっ子でアイドルだった2つ目時代、政界への進出と引退、落語協会からの脱退と立川流創設、落語の変革と円熟期、がんとの闘病・・・とたどる。この構成はほぼ一緒でありライフイベントと成し遂げたことに関しては、破天荒で多面体だった談志さんにしても、年譜とともにほぼ固まってきたということだろう。
【参考】<談志役にビートたけし、談春役は二宮和也>落語界の異端・立川流での修業時代を描いたドラマ「赤めだか」が秀逸
自分の存命中には後継指名もせず、自ら亡き後の立川流についても勝手にしろ、と何の指示も出さなかった家元のもと、いまひとつ結束力の弱いゆるいつながりのこの一門がこの生誕80周年に何のイベントをしかけ、一門としてのあり方、談志のレジェンドを残していくのか。
それこそ、談志十八番を定めて、それぞれの弟子が競う会を開くのか、ひねくれて十八番以外を競うのか。談志十八番というなら、そのテクニックや当時画期的とされたのがいったい何だったか、その何を弟子筋が継いで残していくのか。あるいは全く違うもので個性を競うのか。
談志の名前は当分誰も継がない、という説もあるが、襲名というのは落語界では一番の告知力と販売力のあるイベントである。一門の結束力を高めることもいうまでもない。
ましてやカリスマ性のある家元のもとに集まった弟子の間では、入門の前後はあるにしても上下関係もそれほどない一派であると聞く。家元の襲名をせずに、寄席というホームグラウンドつきの席亭(プロデューサー兼プロモーター)もなく、もちろん定例的に一門で口演をする会場はあるにしても、さてどうやって一門の後進を育成し、結束を保っていくのだろうか。
【参考】<桂歌丸の笑点引退に想う>「笑点」こそ日本の落語文化の衰退要因?
かつて家元である談志さん自らが、前座から2つ目・真打への昇進試験をしていたが、ある時期からは孫弟子の昇進は弟子にまかされるようになった。となると、「談志がお墨付きを与えた弟子」が、自分の弟子の技術的な水準をはじめ諸々の資質を担保し真打に昇進させることになる。
そこには談志イズムのようなものは脈々とあるにしても、ひとつのギルド(職能集団)と考えれば、集団の中での技能と資質の担保は必須のことのように思われる。
歌舞伎界でいうなら、名跡の襲名をすることで脈々と演目や型、芸が受け継がれていくシステムがあり、名跡を継いだら演じなければいけない演目も決まっている。先代までの芸を絶やさぬよう、同じ域まで至るよう、死ぬまで精進をつづけ、また目の肥えた贔屓筋や諸先輩が、時に厳しく、時に暖かくその精進を見守る。時には絶えてしまっていた演目を復活させることもあろう。
いずれにせよ、きちんと継承のシステムができているのだ。
それにくらべると、落語家にはトリを取る(寄席形式の落語会で、最後に出番が来る)ための大ネタはあるにしても、そこまで演目の縛りがないように思われる。
実演家でなければその功績、技能が解説されずらいのが、この手の日本の伝統芸能だが、きちんとした立川談志の功績の評価とともに、そのレジェンドをいかに弟子たちが継承し、さらに発展させていくのか。談志生誕80年の今年はその始まりといえるだろう。
 
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