<尾木ママのブログはただの暴力?>なぜ尾木直樹氏のブログは炎上するのか


藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]

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北海道でおきた「小学生置き去り・行方不明騒動」に関し、尾木ママこと教育評論家・尾木直樹氏が炎上している。両親がしつけのために子供を「置き去り」にし、その結果、行方不明になった経緯を、事件発生当初から両親の行為は虐待であり「警察にも間違いなく逮捕される」とブログで批判。加えて、

「置き去りそのものが 真実なのか 失礼ながら 疑いたくなってしまいます」

とまで述べ、陰謀論的犯罪性をも想起させる情報を発信した。結果的に、児童は自衛隊内施設にいたところを保護され事なきを得たが、この騒動をめぐる小学生の親に対する尾木氏からの「断罪」とも取れる一連の発言に、「無責任」「児童の父親に謝罪しろ」「教育評論家あるまじき言動」といった批判が集中した。

これまでも尾木氏の舌禍事件や「炎上」は少なくない。

五輪エンブレム騒動において、デザイン業界や五輪利権を批判する素材として、「(旧)エンブレムのデザイナー・佐野研二郎氏が200億円受け取る」といった事実とは異なる情報を自身のブログを通して流布し、謝罪に至ったことは記憶に新しい。尾木氏は「とんでもないデマ情報」を流しただけでなく、(佐野氏とエンブレム騒動の是非はさておき)佐野氏への名誉毀損も著しい。本来であれば謝罪して済むレベルの話ではない。

【参考】<なぜ「炎上」は起きるのか>五輪エンブレム選考に見る「日本のデザイナーは勘違いで時代遅れ」

今回の「憶測デマ」に関しても、殺到する批判に対して尾木氏はブログでただちに謝罪をした。もちろん、その立ち位置が「個人のブログにすぎない(けど、今後は気をつけます。ネットって怖いよね)」といったものであることは伝わってくる。

しかしながら、個人ブログのレベルを超えている多くのアクセス数と影響力を持つ尾木ママのブログを考えれば、尾木ママ公式ブログは、もはやテレビや新聞とかわらない、いわば「メディア」である。つまり、尾木氏は、自分の一存でコントロールできる影響力のある「メディア」を使って、小学生の両親の社会生命を脅かしかねない糾弾をし、それを流布したことになる。

オークションサイト詐欺で、ステマ行為、詐欺幇助的行為をした多くのタレントが非難されたことで記憶に新しい「ペニオク事件」を思い出してほしい。「影響力のある著名人」が「メディア化したブログ」上で展開していることは、ほぼ公的なメッセージとして信頼性を持ってしまう。多くの消費者が、それを真実である、客観的な情報である、と信じてしまいがちなのだ。

消費者のメディアリテラシー能力の必要性云々の議論はさておき、それが現実だ。ましてや、教育評論家として著名で、教育を専門とする大学教授である尾木直樹氏であれば、その信ぴょう性はとんでもなく高い。それがデマや誤認、間違いであると思う人の方が少ないのではないか。

そう考えれば、尾木ママが、(個人ブログの形をした)影響力のある商業メディアを使って、何の権限や正しい情報があるわけでもないのに、陰謀論レベルの判断で「逮捕される」とか「200億円の利権を受け取る」などと発言することには、いわば「暴力」だ。商業メディアが持つ暴力性を不当に利用すれば、1人や2人の社会生命を奪うことぐらい容易だろう。もちろん、それを「所詮、個人のブログですから」という認識で、公然と行使し続けるのであれば、それはもはや「公開リンチ」だ。

【参考】キンコン西野<無駄に炎上する人たち>キーワードだけに反応して炎上する「単語脳」

少なくとも、反論の術を持たない「行方不明児童の両親」に対して、「絶対に逮捕される」などと明言することは、発言力を持つ尾木氏による一方的な「暴力」であり、強者から弱者への「虐待」ではないのか。騒動が解決した今もなお、「あの父親、何かやってんじゃない?」という印象はどこかで残り続ける。

もし、尾木氏が、大手新聞や地上波のテレビニュースやらで「尾木ママこと尾木直樹氏、名誉毀損で逮捕確実」と憶測で報じられたらどうだろうか。「メディアによる個人のよる暴力だ」と反駁するはずだ。ただし、それでも尾木氏に断罪された「行方不明児童の両親」よりはマシかもしれない。少なくとも、尾木氏は反論する術とメディアを持っているからだ。

以上を踏まえ、「尾木ママのブログ」はなぜ炎上するのか、について考えてみる。

その理由は簡単だ。教育者として暴力やイジメを否定し、その問題解決に取組んでいるはずの尾木ママ自身が、自分のメディアを使った暴力や虐待には、無頓着であるからだ。

しかも、尾木ママ公式ブログの言動が、世論誘導さえしかねない強い暴力性をもっていることに、多くの人たちが気がついてしまっている。悲しいかな、それに気がついていないのは、尾木ママ本人だけなのかもしれない。この尾木氏の矛盾を理解してくれるような人は多くはあるまい。

今回の騒動、小2児童の置き去りという「しつけ」は明らかに、行き過ぎている。両親は「心理的虐待」として函館児童相談所に通告されたというが、それも致し方がないことだろう。両親の行き過ぎを擁護することはできない。それでもなお、それ以上に行き過ぎていた「虐待」が、尾木ママの言動だったことに間違いはない。

尾木ママは自身のブログで次のように書いている。

「虐待とは『子どものためといいながら、親の気持ちを満足させるため』(2016-05-30 14:19:13)

この言葉は、尾木ママ自身の言動にも当てはまる。「子ども」を「社会」に、「親」を「尾木ママ」に置き換えてみてほしい。

尾木氏もメディアの暴力性は十分理解しているはずだ。だからこそ、自分自身のメディアの暴力性にも気づくべきだろう。

 

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藤本貴之(ふじもと・たかゆき) 東洋大学総合情報学部・教授(情報デザイン論・メディア構造論)/北陸先端科学技術大学院大学・教育連携客員教授/藤本情報デザイン事務所・執行役員/JAGDA正会員/最先端のメディア研究・メディア技術の知見から、アカデミズムの枠を超え、企業や自治体などを対象としたメディア設計や情報発信戦略など、数々の実践的なプロジェクトを手がけている。主な著書に『だからデザイナーは炎上する(中央公論新社)』『情報デザインの想像力』『脳にアイデアを思いつかせる技術(講談社)』『映像メディアのプロになる!(河出書房新社)』など、多数。