<豊洲報道で見落とし>本当は「盛り土」よりも「地下水管理システム」が重要

社会・メディア

両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
***
豊洲問題ウォッチャーとして不思議でならないことがあります。地下水管理システムのことです。
敷地全体に盛り土をしなかったことを「いつ誰が決めたのか」ばかりが問題になっていますが、豊洲の安全性を担保するのは盛り土のあるなしではありません。地下水管理システムこそが安全性担保のキモです。
豊洲の土壌浄化問題を簡単に振り返ります。「元東京ガス」の汚染された土壌の上に市場を作る以上、当然相応の安全対策が求められました。
まず地表下を掘り、汚染されていない土壌と入れかえます。さらにその上に汚染されていない土を盛り土します。しかしこれだけは汚染土壌の上にふたをしただけです。
さらに地中深い部分は10平米メッシュで地質汚染調査をし、土壌汚染部分は掘り返して土壌浄化処理を施します。また地下水に対しても入れかえ処理して汚染地下水を無くしました。
【参考】<ついにはじまった豊洲問題の処分>市場長は2階級降格!懲戒人事が続々
これで豊洲の地下土壌および地下水は浄化処理されて一応安全になったはずです。
しかし、これだけでは不十分です。この土地はそもそもヘドロを埋め立てた場所なので、長い時間とともにそのヘドロ由来の有害物質が地下水に溶けて上がってくるかもしれません。
またいくら浄化処理したとはいえ、なんらかの理由で有害物質が地下水に浸透し地表へ上がってくる可能性を100%否定することはできません。
そこで切り札として設置されたのが地下水管理システムです。地下水位が一定以上に上がるとセンサーが感知し、ポンプが稼働して地下水を汲み上げて地下水位を下げます。汲み上げた地下水は水質検査し、有害物質が含まれていれば浄化処理をしてから下水道に流すというシステムです。
この地下水管理システムが稼働していれば、地下水位は砕石層より上にくることはありませんから、土壌の毛細管現象で地下水が盛り土まで染みこんでくることもありません。
しかし、この地下水管理システムが働かないと、地下水は砕石層の上にまで上がってきますから、もしその水が汚染されていれば仮に盛り土があっても土中に染みこんでしまい、安全とは言えなくなります。
盛り土の無い現在の地下空間に水がたまっている状態ならなおさらで、地下水位上昇により溜まった水が汚染されていれば安全であるはずもありません。
要は、豊洲が安全であるかないかは、盛り土されているか、空間のままか、が最大の問題なのではありません。地下水管理システムが予定通りに稼働するかどうかが安全を担保するキモなのです。
【参考】<知事は悪くない?>豊洲盛り土問題で石原・猪瀬両元知事が「怪発言」
このことが、「地下水管理システムこそ豊洲の生命維持装置」と言われる所以なのです。
これほど重要な地下水管理システムなのですが、これに関するメディアの扱いはかなり貧弱です。地下に水が溜っていることや、その水に含まれている有害物質が環境基準値以下か以上かには多くのボリュームを割くものの、そもそも水が上がってこないようにするはずの地下水管理システムについての報道はわずかです。
伝えられる内容も、テスト中だとか、どうも故障でうまく稼働しないらしいとか、一部しか動かしていないらしい、とか情報はバラバラで、確定した正式情報は伝えられていません。
今回の豊洲報道全般に言えるのですが、都発信とされる情報は様々に出てくるのですが、都の責任ある立場の方が発した確定情報となるとほとんど伝えられません。
故に憶測や異論が生まれ、それらはメディアにより「新たな謎」と大見出しをつけて伝えられ、今日の破滅的大騒ぎの要因となっているのです。
古来、兵法で戦力の逐次投入は愚の骨頂とされますが、東京都による無統制な情報の逐次開示も愚の骨頂と言わざるを得ません。
地下水管理システムについても、責任ある立場の方が正式の場で正確な情報を発信すれば、地下水汚染問題も、ひいては豊洲の安全問題もいくらかは世論状況が違っていたのかもしれません。
10月17日、地下水管理システムが東京都に引き渡される日と言われています。この日以降、このシステムがどう稼働するのか、このシステムについて都がどう発信して行くのか、このことが豊洲問題の行く末に意外と大きな影響をもたらすと思われます。
なにせ地下水管理システムは豊洲市場の生命維持装置なのですから。
 
【あわせて読みたい】