「小さな私」を通して大きな世界がつながるセレンディピティ


茂木健一郎[脳科学者]

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「セレンディピティ(serendipity)」とは、偶然の幸運に出会うことだが、それは見方を変えれば自分の経験というプロセスを通して世界の中で「ドット」と「ドット」が結びつくことである。

つまり、自分が触媒となって興味深い化学反応が起こる。

最良のセレンディピティは、自分にとって意義があるだけでなく、世界にとっても意義がある。自分という小さな存在を超えて、世界全体から見て意義があるような結びつきができるのが最良のセレンディピティなのである。

その意味で、セレンディピティの瞬間は、自分が限りなく小さな存在になる。世界の大きな絵が見えてくるのであって、その中で、自分が芥子粒のような存在になり、そんな自分をノードとして大きな結びつきができる瞬間がセレンディピティである。

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たとえば、3Mの研究者が弱い接着剤をつくり、その使いみちがわからないでいた時に、教会で賛美歌を歌っていて歌集の中に挟まっていたしおりが落ちた瞬間に見えたセレンディピティ(付箋「ポスト・イット」の開発)においては、大きな世界の絵の中に自分が置かれていたことだろう。

ニュートンがりんごが落ちるのを見て万有引力の法則を発見した時にも、ニュートンという小さなノードを通して、りんごの落下と月の周回という二つの事象が結びついた。存在としてのニュートンは、むしろ小さなものとなった。セレンディピティに向けた祈りは、「この小さな私を、世界を結ぶネットワークのノードとしてお使いください」というものだろう。自分の小ささを知っている謙虚な人の方が、大きなセレンディピティに出会いやすい。

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茂木健一郎

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)脳科学者。株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員。1962年10月20日、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程終了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を出て現在に至る。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。