<ファストファッションの正体?>ファスト化しないベイクルーズが急成長の理由


藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]

***

近年、「究極的なアパレル不況」と言われている。大手、準大手とされる有名なアパレル企業が軒並み赤字を計上し、倒産や撤退も珍しくない。

アパレル各社が苦しむ中、ユニクロ、H&M、Forever21、ZARAといったいわゆる「ファストファッション」は世界的に好調だ。原宿・新宿などは言うまでもなく、ファッション街の中心は、どこもファストフッションの巨大店舗で占められている。

1000円、2000円で購入できる洋服が店を飾り、「短期的消耗品」としての服ばかりが売れる。「数百円のシャツ」という目を疑うような価格帯も少なくない。それは昭和40年代の特売価格をも下回る。

そのような現状が日常化している今日、これまでごく当たり前のように販売されてきた「標準的な価格帯の衣服(1万円前後~)」を販売する多くのメーカー、ブランド、販売店が苦境にあえいでいる。Tシャツ1枚が数万円もするような高級ブランドならまだしも、ファストファション登場以前(しかも今よりも物価が低い)ではごく当たり前に流通してきたファッションが「高い」を理由に売れないのだ。

ファストファッションの急激な浸透は、それらが「安いけど、それなり」という消費者にとって都合の良い位置づけであることは言うまでもない。しかも、一見すれば「ダサさ」は目立たない、流行をそこそこ意識しつつもブランド個性が出ないような作りになっている点も大きい。

大きくブランドロゴが印刷されたような服は、世代を限定するし、そのブランドが少しでも低迷すると、一気に「ダサい」ものとみなされ着づらくなる。しかし、無地の白シャツがそうであるように、ブランド個性を出さない服であればその危険性は低い。

近年では、そのような傾向をニューヨーク発信のファッションスタイル「ノームコア(Normcore:究極の普通)」という言葉に置き換えてもてはやすこともあるが、ファストファッションへの敗北を容認できないファッションジャーナリズムのなれの果てなのだろうか。「高級駄菓子」にも似た違和感を感じる。

このような潮流は、ファッションだけに限った話ではない。今日あらゆる場面で見られる現象だ。家具で言えば、IKEAやニトリなどが「安価だが、そこそこ」という理由で好調だ。しかし、実際に購入していみるとわかるが、多くのファストファーニチャーは、構造や強度などに不安を覚えるものは少なくない。ただ、一見したヴィジュアルはシンプルで小綺麗、北欧的ミニマルなおしゃれ感が漂う。

【参考】<おっさん若者?>椎木里佳氏の古すぎる感性は「現代の若者」の縮図

近年、あらゆる商品の急速なファスト化が進んでいるが、それらはいづれも「シンプル」で「ミニマル」なデザインだ。カタログを見れば、どれも「真っ白」か単色で、生活感がないという部分も共通している。

もちろん、シンプルでミニマルを基調としたファッションや家具は昔から存在し、飽きのこないデザインで長いブランド生命を持っているものも少なくない。しかし、近年の消費を席巻しているシンプルでミニマルなファスト商品は、そういったものとは明らかに異なる。ただひたすらに表面的なシンプルさと低価格化が追求されているからだ。

そのような商品が受け入れられる理由は2つある。まず、「安いけど、それなり」という経済的理由。そして第2が、生活感の希薄なシンプルでミニマルなデザインは、「それなりにおしゃれ」に感じるが、利用者の個性が出ない、ということだ。利用者の個性が反映されないということは、「自分のセンスに自信がなくても、それなりのおしゃれ感が味わえる/恥ずかしくない」ということを意味する。

この2つの理由こそがシンプルでミニマルなファスト商品が我が国で急激に受け入れられている要因であるように思う。つまり、はっきり言ってしまえば、「お金がなくてダサイ人」に優しいのだ。

特に第2の理由が果たしている役割は大きい。ファストファッションのような昭和40年代水準の価格帯で成長するアパレルだけに限った話ではないからだ。

例えば、無個性を売りにしたシンプル・ミニマルの代表である「無印良品」は4期連続最高益であるという。「無印良品」の商品は、必ずしもファスト商品のような価格ではない。かといって、その社名のように、商品自体のクオリティが極度に高いのか、と言われれば、けっしてそうとは言い切れない。クオリティと価格のバランスで言えば、ユニクロの方が明らかに上だろう。

それでも連続最高益を達成するほど売れているという事実。それは、モノトーンでつくられた無個性なシンプルアイテム、ミニマルファションが、おしゃに疎い人やいわゆる「ダサイ人」でも、気軽におしゃれを体感できるからではないだろうか。家具がIKEAばかりになっている家庭と同じだ。

「どうすれば若作りできるか?」「おしゃれになりたいな」と考えた場合、間違って流行りアイテムや若者向けの服を買ってしまうと、空気の読めない「痛い人」と思われる危険性が常につきまとう。しかし世代や流行を問わない無個性なシンプル、ミニマルなアイテムであれば、その危険性はよほどでなければ回避できるのだ。

10代後半から20代の大学生を中心とした若い女性のファッションがあまりにも画一化、パターン化してしまい、後ろ姿からは個人特定できない「量産型女子」と呼ばれる若い女性層のファッション様式が最近話題になったが、それなども同根の意識だろう。

【参考】<コレジャナイ>東京五輪公式アニメグッズの絶望的なダサさ

そんなアパレル不況の中、いわゆる「ファストファッション」以外で唯一元気が良いアパレル企業といえば、通販サイト「スタイルクルーズ」と27ブランド、国内132店舗を展開するベイクルーズ社だ(主なブランドにJOURNAL STANDARD、IENA、Spic&Span、EDIFICEなど)。売り上げは前期(36期)が前年度比150%、今期(37期)は142%と、不況にあえぐアパレル業界ならずとも、驚異的な成長率を遂げているという。

複数のブランドを展開するベイクルーズ社にももちろんファスト的な低価格帯商品はあるのかもしれないが、少なくとも「ファストファッション」という印象がついているラインは皆無だ。もちろん、簡単には買えないような高級ブランドというイメージもない。無個性な「シンプル/ミニマル」な商品で埋め尽くして、消費者の選択ミスを回避させるサービス戦略もしていない。

いわば「普通におしゃれを楽しむ人が、普通におしゃれな洋服を、普通の価格で購入するブランド」という表現が最適だろう。

実際、通販サイト「ベイクルーズストア」に並ぶ商品をみると、1万円以上、2万円前後の商品が並んでいる。商品一覧を見ても、どのカテゴリも「真っ白」や単色ではない。この一見ありふれて見える現実こそ、今日のアパレルが最も苦手とし、消費者を逃している領域になっている。しかしながらこれは、今日の「ファストファション時代」から見れば時代に逆行した「特異現象」なのかもしれない。

アパレル不況の中で、ファスト化も無個性化もすることなく急成長するベイクルーズという「特異現象」。しかしながら、ちょっと考えてみれば、この特異現象が、実に時代に即した、よく練られた戦略であることがわかる。

例えば、三越伊勢丹・大西洋社長の辞任というニュースでも話題となった高級デパート。週末は客に溢れている高級デパートであるが、爆買い外国人観光客を除けば、客の多くがウィンドウショッピングをしているだけで、そこで購入はしない。見て、触って物色はするが、実際の購入は店の外に出て、スマホに商品名を入れ、最安値のオンラインショップで購入する。ましてや高級デパートのオンラインストアを利用しようなどとは誰も思わないだろう。

一方、絶好調なファストファッションはと言えば、短期的消耗材としての利用には便利だが、「普通の大人がちょっと小綺麗にして出かける」ためには適しているとは言い難い。「無印良品」のような無個性なナチュラル路線だけでは収まらない場面も圧倒的に多い。

このように、高級デパート、ファストファッション、無個性専門店のいづれもが、目先の消費動向に流されて取り逃がしてしまった「決して小さくない一領域(従来の「普通のおしゃれ」)」をターゲットにし、成功しているのが現在のベイクルーズ社である。

見方を変えてみれば、今日の日本は、その是非はさておき「普通のおしゃれ」が消滅しつつある社会に突入しているようにも思える。その意味で、「普通におしゃれを楽しむ人が、普通におしゃれな洋服を、普通の価格で購入するブランド」ベイクルーズ社の成功が意味することは大きい。

過度に「質より価格へ」「個性から無個性へ」と傾斜し、すべてがユニクロ化、IKEA化、無印良品化している日本。そんな中で、ベイクルーズ社の方向性は日本の中では、希少種の一つなのかもしれない。しかし、希少種とはいえ、140%、150%の成長をしている現実を考えれば、そのあたりの日本の消費者ニーズは本当は小さくないのだろう。今後の日本のファッションビジネスを考える上では無視できないポイントだ(ファッションジャーナリズムの言葉遊びではなく)。

「スタイルクルーズ」も今年で10周年を迎えるベイクルーズ社。ファストファッションやシンプル商品、フリマアプリばかりが好調な現在に対して、逆走する大手アパレルが一社ぐらいあっても良いと思うのは筆者だけではあるまい。

 

【あわせて読みたい】

The following two tabs change content below.
藤本貴之(ふじもと・たかゆき) 東洋大学総合情報学部・教授(情報デザイン論・メディア構造論)/北陸先端科学技術大学院大学・教育連携客員教授/藤本情報デザイン事務所・執行役員/JAGDA正会員/最先端のメディア研究・メディア技術の知見から、アカデミズムの枠を超え、企業や自治体などを対象としたメディア設計や情報発信戦略など、数々の実践的なプロジェクトを手がけている。主な著書に『だからデザイナーは炎上する(中央公論新社)』『情報デザインの想像力』『脳にアイデアを思いつかせる技術(講談社)』『映像メディアのプロになる!(河出書房新社)』など、多数。