14才プロ棋士・藤井聡太4段に見る「天才を育てる伝え方」


安達元一[放送作家]

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5月4日、大阪市で行われた将棋新人王戦3回戦で、横山大樹アマに勝利して16連勝と記録を伸ばした藤井聡太4段。

今や時の人となった中学生棋士であるが、その天才と呼ばれる頭脳は、どのように作られたのだろうか? 紐解いてみると、そこには私たちの子育てにも役立つ秘訣が見えてくる。

2002年、愛知県瀬戸市に生まれた藤井少年。父はサラリーマン、母は専業主婦、そして4才年上の兄、家族誰もが将棋の世界とは無縁な、ごく普通の一家。藤井君はインタビューで「母親と一緒に奨励会(関西将棋会館)に行く2人分の新幹線代がもったいない」と言っていたように、特に裕福な家庭でもなかったよう。

裕福な家庭、特種な家庭で特別な教育環境があったわけではない藤井家。ちょっとした接し方、物の言い方、考え方を変えることで、私たち一般人の子供も、藤井君のような天才に育つ可能性は十分にありそうだ。

ごく普通の家庭から、なぜ天才が育ったのか? その幼少期のエピソードから探ってみたい。

藤井君が将棋を始めたのは5歳。祖母が持ってきた「スタディ将棋」という、子供には難しい将棋の駒の漢字を、動き方が矢印で書いてありわかりやすく遊べるという玩具がきっかけだと言う。

この「スタディ将棋」に藤井君は興味を示し、飽きずに祖母と遊んだという。ちなみに、藤井君の祖母は、この玩具を親戚や、他の子供たちにも与えてみたそうだが、関心を持ったのは彼だけだったという。

さらに幼少期の藤井君が、高い興味を持ったのが、親が買い与えてみた「キュボロ」という、積み木を組み立てビー玉を転がして遊ぶ立体パズル。これに熱中し、飽きずに1日中遊んでいた。

ここまでで推察されるのが、子供を天才に育てるには「可能性を与える」のが大切ではないかということだ。将棋玩具も、立体パズルも、興味を持つかどうかわからないがやらせてみる。その子の中に潜む「興味のスイッチ」を、いかに刺激できるかを試行錯誤するのが、天才を育てるひとつの要因と思われる。

ちなみに藤井君の小学生時代の文集には、「最近関心があること」として「将棋、読書、電王戦の結果、尖閣諸島問題、南海トラフ地震、名人戦の結果、原発」と書かれている。親が広く興味の選択肢を与えたであろう様子が見て取れる。

確かに子育てにおいて、日々の忙しさに追われ、「それダメ!」と頭ごなしに否定しまうことがある。さらにはダメな理由も説明せず、子供の挑戦の可能性を摘んでしまうことも少なくない。

子供はまだ未熟であるがゆえに、私たち大人のように理路整然と考えていない。思考も大人のようなロジカルな回路とは違い、常にあちこちに拡散している。それを大人に合わせるようにキレイにまとめようとするのは親のエゴであり、「罪」である。

疑問の固まりである子供に、何かを質問されたとき「忙しいから後で」と取り合わないのは論外であるが、つい面倒臭くなり、答えをすぐ教えてしまうのも、子供が天才に育つ芽を摘んでいる。「なぜだと思う? 考えを聞かせて? この本でちょっと調べてごらん」と、「考えるクセ」を与えるべきである。

藤井君が遊んだ将棋もパズルも、正解という答えがなく、いつまでも考えづけられることが出来たのがよかったのだろう。

天才・藤井4段と比べるべくもないが、筆者のような放送作家も多少の能力が求められる職業である。その根源となっているのが「可能性を広げる」ことである。

テレビの現実や、予算や、ルールに縛られ、アイデアがシュリンク(縮小)してしまいがちの現場で、「こんな可能性もあるよ、こんな事だって選択肢に入れてみよう、現実味はないけどこんなバカな考え方だって出来るよ」と、とにかくスタッフ一同の脳を活性化させる。それにより収束しがちな思考では思いもつかなかった可能性を、制約を取り払って拡散させてみることにより、新たの答えを見つけ出すのが私たちの仕事なのだ。

【参考】<箱根駅伝>青山学院大学・原晋監督にみる「若い人をその気にさせる伝え方」

最後に、子供を天才に育てる秘訣を母親のインタビューから見つけた。

「月に2回、名古屋から新幹線に乗って大阪の関西将棋連盟に通っていました。朝4時半に起きて朝食の準備をして、5時に聡太に食べさせて……。8時には将棋会館に到着するように、5時半には自宅を出発していました」

奨励会で6連敗したときには、

「会館の中では悔しさを胸の内におさめていたんだと思いますが、私と一緒に会館を出たとたんに、もう大泣き。自信を失っていたんだと思います。でも、私は、聡太の気が済むまで黙って見守るしかありません。それでも一緒に悲しんでいるつもりなんですが、聡太は『お母さん、ボクが負けると機嫌悪いよね』って言うんですよ(苦笑)」

つまり、「寄り添う」ということなのだ。

親の気持ちというのは、言葉で伝えるばかりではない。いやむしろ言葉以外、寄り添う態度で伝える事が重要なようだ。「なにがあってもこの親は私を応援してくれる、守ってくれる」という無償の安心感を伝えることが、子供を天才に育てるのではないだろうか。(その他、浅田真央、福原愛などを天才を天才たらしめた伝え方などを、拙著「人もお金も引き寄せる伝え方の魔法http://amzn.to/2khGmmk で紹介しています。ご参照ください。)

また、藤井4段の母親はこんな言葉も残している。

「プロは厳しい世界。最年少だからといって、勝てる保証はありません。でも、本人が選んだ道だから、私は応援するだけ。聡太が勝つ姿が見たいです」

 

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安達元一(あだち・もといち)放送作家。1965年生まれ。バラエティ番組を中心に活躍する放送作家。株式会社モトイチエンタテインメント代表取締役。近年では教育ビジネスの分野でも活躍。一般社団法人ビジネスプロモーション協会理事。コンテンツブレイクスルーカレッジ主宰。アイデア工学Works主宰などその活動は多岐に渡る。第57回国際エミー賞入賞「たけしのコマネチ大学数学科」、第42回ギャラクシー賞テレビ部門大賞受賞「笑ってコラえて!文化祭 吹奏楽の旅 完結編 一音入魂スペシャル」、2007年国際平和映画祭JAPAN in こしの都、グランプリに当たる「こしの都賞」受賞「一宿一通」、処女小説「LOVE GAME」(幻冬舎)を上梓、読売テレビにて連続ドラマ化など。