<生放送の価値>生放送の魅力を強調することは生放送のつまらなさを隠蔽する作り手の言い訳


高橋維新[弁護士]執筆記事

 

テレビの始まりは、生だった。これは間違いがない。

昔はドラマから何から全て生でやっていた。ドラマでも、NGが出るとそれがそのまま放映されていた。そこには、舞台と同じ緊張感があった。

今のテレビは、ニュースやスポーツみたいな速報性の高いものを除けば、ほとんどが生ではない。編集をしている。1時間の番組であれば、生なら1時間しか撮らないが、編集をする場合、3時間も4時間も撮影をする。その中から、放送できない部分や、失敗に当たる部分を切り落とし、おもしろいところだけを抽出して、1時間分の映像作品を作り出す。これが、編集という作業である。時には作品をよりおもしろくするために映像の時系列を入れ替えたりもする。字幕を入れたりもする。参考になる画像を入れたりもする。これも全て、編集である。

こうやって書くと、編集した方がおもしろい作品が出来上がりそうである。そして、それはその通りである。テレビは、ニュースやスポーツみたいな速報性が求められるジャンルを除けば、編集したものの方がおもしろいのである。おもしろいところを抜き出して、おもしろくないところを削ぎ落とすのだから、編集した方がおもしろくなるのは子供でも分かる道理である。

そうなると、生でやらざるを得ない舞台は、テレビよりおもしろくない表現手法である、ということになりそうである。これについては、そうとも言い切れない部分がある。

舞台には、舞台の強みがある。舞台は、見ること自体にお金を要するので、普通はその舞台を見たい人しか来ない。そして、一つのハコに、お客さんが(それもその舞台が好きで、その舞台を見たくてやってきたお客さんが)たくさん集うことになる。お笑いの舞台であれば、自分の周りに笑ってくれるお客さんがたくさんいるのである。

周りが笑っていると、自分も笑いやすくなる。筆者はこの作用を笑いの連鎖力と呼んでいるが、舞台では、周りに笑ってくれる他人がたくさんいるから、連鎖力も強くなるのである。

ちなみに、映画についても同じことが言える。ただ舞台については、演者と観客が同じ場の空気を共有していることが、連鎖力以上の意味を持っている気がする。このへんはまだちゃんと言語化できていない。

話を戻す。

テレビは、通常の場合、舞台より少人数で見るものなので、舞台のように大きな連鎖力が働くわけではない。だからこそ、テレビは編集という手法でおもしろい部分を取捨選択する必要が出てくるのである。

こういうことを言うと、生こそテレビの原点であり、生の方がおもしろいという反論を業界人から受ける。彼らが上げる生の利点は以下のようなものである。

  1. ハプニング
  2. 演者の緊張感が保てる

1.のハプニングについては、滅多に起きないからハプニングなのであって、これだけを期待して編集されていないテレビを見続けるのはなかなかに苦痛である。それにおもしろいハプニングであれば編集で残せばいいだけの話である。逆のことを言えば、生放送は、放送できないハプニングも放送せざるを得なくなるという欠点をも持っていることになる。

2.の点についても、スタジオに観客を入れるなどの他の方法で対処が可能である。また、生にすると、演者が悪い意味で緊張して萎縮してしまうという意味では欠点でもある。

やはり、バラエティは編集した方がおもしろいのである。そもそも、テレビと類似の表現手法である映画においては、「生の方がおもしろい」と言う言説は聞いたことがない。映画は、全てガッツリ編集がされている。

それでも業界人が「生の方がおもしろい」などと宣うのは、編集をしたくないからである。あるいは、編集したものより確実につまらない生のテレビについて、そのつまらなさを糊塗するためである。生の番組について「生放送」であることを特に理由もなく利点のように強調するのは、このつまらなさの隠蔽・糊塗の最たる例である。

なぜ作り手たる業界人が編集を嫌がるかといえば、編集には厖大な時間と作業を要するからである。要は、面倒くさいのである。一度動画を作った経験がある人なら分かると思うが、1時間の映像作品を作るのに必要な編集時間は、多分丸1日じゃ足りないぐらいである。「生の方がおもしろい」なんていう主張は、作り手の言い訳に過ぎない。27時間テレビがあまり面白くないと思っているそこのあなた、それはあれが生だからである。生だから、編集されているものよりボケの量も質も希薄になるのである。そして27時間テレビが生なのは、27時間分もの映像を編集して作るのが筆舌を尽くしがたいほどにに大変だからである。

筆者は、死ぬまでに一度でいいから全編編集した27時間テレビを見たいと思っている。バラエティ関係におけるフジテレビのキャスティング力には、やはり並々ならぬものがあるから、ちゃんと編集した作品でそれを発揮してほしいのである。

ちなみに、さんまさんは、日本の芸人で唯一、生でもそうでなくてもあまりおもしろさが変わらない芸人である。普段からずうっとボケ倒しているので、編集しようがしまいがあまりおもしろさの密度が変わらないのである。さんまさんは、その意味では非常に稀有な芸人であり、この点は欽ちゃんもたけちゃんも松本も、他の芸人はかなわない。

だから27時間テレビも、さんまさんが出ているところだけはまだ見るに堪えるのである。

 

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高橋維新(たかはし・いしん)弁護士、コラム二スト。1987年、東京生まれ。2006年、東京大学法学部入学。2010年より「マヒ郎」のペンネームでファミ通町内会へ「ハガキ職人」として投稿を始める。現役ハガキ職人を続けながら、2012年に司法試験合格。2013年、弁護士登録(函館弁護士会)。ファミ通町内会長(第5代)。