映画「ロスト・イン・パリ」に感じるウディ、キートン、チャップリン。


高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

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ベルギーの道化師夫婦ドミニク・アベルとフィオナ・ゴードンの製作・監督・脚本・主演による、夏のパリを舞台にしたコメディ映画『ロスト・イン・パリ』を、渋谷ユーロスペースで観た。いわゆる(日本ネイティブからみれば)奇妙な味の映画であった。観客の入りは5割ほどで、中高年がほとんどである。

物語の内容を「映画.Com」から引用する。

「雪深いカナダの小さな村で味気ない毎日を送っている図書館司書のフィオナのもとに、パリに住むおばのマーサから手紙が届いた。フィオナに助けを求めるマーサのために、臆病者のフィオナは勇気をふり絞ってパリへと旅に出る。しかし、アパートにマーサの姿はなく、セーヌ川に落ちたフィオナは所持品を全部なくしてしまうという大ピンチに。さらに謎の男ドムにもしつこくつきまとわれる始末。フィオナの前途多難なマーサ探しの冒険の旅がスタートする。」

ひとこと書き添えればマーサおばが、パリでのひとり暮らしで、老人ホームへの入園を拒んでいるという設定が、物語にピリリと味を効かせている。

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映画好きなら、ウディ・アレンを想起するのではないか。ギャグと奇妙な味は彼の映画を彷彿とさせる。2011年、ウディ・アレン監督はタイトルもよく似た『ミッドナイト・イン・パリ』 (Midnight in Paris) を自らの脚本で公開。

こちらは真夜中にパリの迷宮に迷い込むが、本作の方は真昼のパリで迷子になる。どちらも、パリという都会の歴史と神秘はよそ者には深すぎることを示している。共通点はまだある。どちらも監督主演で自身がコメディアンである。

こうなると、ストーリーよりもギャグを中心にするようになり、その傾向は本作にもある。ギャグはストーリーを分かりにくくする点もあるが、観ていて嫌でないように組み込まれるのはさすがである。ギャグが立っている。

さらに「The Great Stone Face(偉大なる無表情)」と呼ばれたバスター・キートン監督からの影響も感じる。いちずな無表情での演技は特にヒロインのフィオナに顕著である。

そしてまた感じるのはチャールズ・チャップリンのリリシズム(叙情主義)からの影響である。本作の場合、悲しみはストレートにではなく、じわじわと迫ってくる。

最後にフランスの映画監督ジャック・タチ(Jacques Tati)の影響について述べておかなければならない。『ぼくの伯父さんの休暇』(1952)で有名なこの監督の作品はいわゆる奇妙な味でヌーヴェルヴァーグの批評家に絶賛された。付け加えておきたいのはタチの映画のギャグが筆者には分からなかったのだがが、「ロスト・イン・パリ」のギャグはよく分かることである。

2017年1月に89歳で亡くなったフランスの名優エマニュエル・リバが、すばらしいコメディエンヌぶりを発揮する。名優は老いておもしろさがにじみ出る。

 

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