<ノンフィクションの種:商品をネタにするテレビ番組の制作は難しい>『八海山』の先代社長は地元を大切にして「原酒」を売っていた

テレビ

高橋正嘉[TBS「時事放談」プロデューサー]

 
商品をネタにするテレビ番組の制作は実は難しい。
撮られるほうは宣伝になると思うから、精一杯サービスしようなどと思う。だが番組を作るほうは、これが面白いネタにすることが出来るか精一杯悩むものだ。出来なければカットすることが出来るか、それが重要になる。撮ったのは良いけど面白くならず、カットして後でもめたということもある。
コマーシャルなら別だ。だが番組ではそれは出来ない。でも商品は視聴者にとっても関心のあることなのだ。手を出さざるを得ない。
かつて、お酒の取材をしたことがある。テーマは旬。日本酒は秋に新米が取れ、年末には新酒ができる。その新酒を取材した。新潟県の「八海山」である。まだ酒蔵が冷房を入れるか入れないか迷っているころだった。酒造りに温度管理が非常に重要だ。冷房を入れると生産量が飛躍的に伸びる。夏も酒の生産ができるようになるからだ。
八海山はまだ冷房を入れていなかった。秋取れた新米を仕込み、冬になるころ酒が出来る。春になると酒造りは終わる。農業をやる人間が酒造りに参加できた。だから旬があった。その年に収穫した米は暮れになると酒として初めて飲むことが出来るのだ。
八海山では最初に取れた酒を「原酒」と呼んでいた。「原酒」を初めて売り出すときに列が出来る。地元で売るのだ。その酒を楽しみにしている人がいる。インタビューしてみると毎年並んでいるという。そんな取材をして放送した。
放送が終わってしばらくしたら、八海山から電話がかかってきた。社長が非常に喜んでいるということだった。喜んでいるという原因はわかった。「原酒」を取材し、それを地域優先で販売している、それだけ地域を大事にしているという意味の番組だったからだ。
社長は悩んでいた。八海山はあまりに人気になりすぎプレミアムがつき一般には買えなくなっていた。生産量を増やして欲しいという要望が販売店から来ていたのだ。冷房を入れて一年間製造できるようにしたほうが良いのでは、という悩みがあった。八海山は旬を大事にし、地域に根ざした酒造りをしているといわれることは、これまでの八海山のやり方が支持されたと感じたのだろう。
酒造りが季節労働ではなくなったときにはスタッフも変わっていくだろう、酒の質も変わっていくかもしれない。何年か後、代が移り社長が交代したようだ。冷房が入ったということを聞いた。
調べてみると旬の酒「原酒」は、今も、12月になるとあのころと同じようにまだ売られているようだ。ただ地域限定だった原酒は日本のどこでも買える様になった。
今も八海山は時折飲む。相変わらずおいしい。味が変わったという話は聞いたことはない。
 
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