「ENGEIグランドスラム」の古臭い設定と下手すぎる芝居

テレビ

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
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筆者はかつて、演芸番組の構成をやっていたことがある。何の工夫もない演芸番組である。東京と大阪の芸人の東西対抗ではあるが、司会もおらず、芸人がネタを披露する。ただそれだけの番組である。
芸能事務所に電話をかけ、キャスティングして、収録日に集まってもらう。もともとコント作家の筆者である。演芸は大好きだから多くの芸人のネタは1回は見ている。ただし、あのネタが見たいとかリクエストを出すことはほとんどはない、演し物は芸人任せである。
その番組は舞台中継をスタジオ収録でやるという程度のものであったので、しなくても良いのだが、カメリハ(カメラリハーサル。本番同様にカメラで撮影しながらするリハーサル)がある。そこで一応ネタを見せてもらう。ネタの尺は伝えてあるし、生放送ではないからオーバーしたら編集すれば良い。それでもカメリハはやっていた。
ある時、若い漫才師に「新ネタがやりたいのでビニールシートとタライ、よく泡立つ石鹸を用意して欲しい」と言われた。小道具さんがすぐにそれを用意した。彼らがカメリハでやったのは、当時はまだトルコと言っていたソープランド嬢の泡踊りだった。さすがにテレビの放送には適さない下ネタだったのでやめてもらった。つまり、カメリハとはその程度のチェックをする場だったのである。
しかし、彼らにそのネタを本当にやめてもらって良かったのかと疑問にも思った。その最低の下ネタはテレビでは出来ないのに面白かったからだ。ベテランは何回か見たネタをやっているのに、彼らはネタおろしだったのである。
そして、その演芸番組は、特に世の中から何の反応もなく、静かに終わった。こういう演芸枠みたいな既得権の番組は、かつては結構放送された。だが、こんな演芸番組じゃダメだと、笑いの好きな若い台本屋(ホンヤ)や、テレビ屋はみんな思っていた。
それで、1980年(昭和55年)に『THE MANZAI』(フジテレビ)が生まれた。笑いの好きなプロは皆、喝采を送った、2000年代に放送されている「ザ・マンザイ」を名乗る番組とは企画の精神が全く違う。芸人の意気込みも違う(ように思う)。なにしろ、漫才師は3か月に1回新ネタをおろすのである。
どう企画の棲み分けをしているのか知らないが、2000年代の「ザ・マンザイ」と、良く似た番組がフジテレビにある。『ENGEIグランドスラム』である。司会はともにナインティナイン。9月23日の土曜の放送を見た。4時間10分の長丁場である。
【参考】<残念すぎた「ENGEIグランドスラム」>志のない番組作りがフジテレビ全体をダメにする
ここからは古参の台本屋(放送作家)としての筆者の文句である。

「彼ら芸人は若いのに、なぜ設定が、みな古くさいのか。」

昔、台本屋は「あたらしい設定・あたらしい設定」と呪文のように唱えていたし、ディレクターは「見たことない奴頼む」とわめいていた。

「コントをやる人たちは、なぜ、あんなに芝居がヘタなのか」

コントは、短いながら芝居である。たとえば自分のセリフがないときに舞台の上で棒立ちになっていたり、手足の置き所が決まらずフラフラしているのには、自分で気づくはずだ、気づいていてそれが恥ずかしくないのか。
コントをやる人は、どこでもいいから、劇団の端役にでも使ってもらって、芝居を学んできた方がいい。マネジャーは、自分の担当する芸人を育てようと思ったら、きちっとそのための働きをするべきである。
ナインティナインの司会はなぜ必要なのか。
当初はナインティナインはなぜマンザイをやらないのかと思ったが、もうマンザイをつくる余力は彼らにはないので司会をやっているのだ、と思うようになった。
ならば、司会の受けコメントで少しは笑わせてくれと思って期待するのだが、期待は毎回裏切られる。ただの進行なら矢部浩之と松岡茉優の2人でやれば良い。なまじ岡村隆史がいるので笑いを期待してしまうが、矢部と松岡なら、何も期待しないのでその分見やすい。
岡村隆史が47歳で矢部浩之が45歳であることを考えると、彼らとて、もう若くないのだから「若いのに設定が古い」などと言われては、ただ迷惑なだけなのかも知れない。年齢なりの古い設定でやっているというだけのことかもしれない。
この番組『ENGEIグランドスラム』を見て一番に頭に浮かんできたのは前段で筆者が書いた昔話である。
さて、演者は博多華丸・大吉、アンガールズ、かまいたち、スピードワゴン、TKO、トット、中川家、ロッチ、エレ片、銀シャリ、サンドウィッチマン、テンダラー、フットボールアワー、レイザーラモン、ロバート、シソンヌ、千鳥、トレンディエンジェル、南海キャンディーズ、ハイヒール、バカリズム、吉本新喜劇ユニット、麒麟、CONTS、東京03、爆笑問題、村上ショージ、和牛・・・の面々。
筆者が視聴し、支持したいと思ったのはアンガールズ、ハイヒール、銀シャリの3組であった。
 
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