<日馬富士暴行問題>何事もなかったかのように相撲中継を続けるNHK -植草一秀


植草一秀[経済評論家]

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相撲界の不祥事がまた表面化した。伊勢ヶ浜部屋の横綱・日馬富士が、酒に酔って貴乃花部屋の前頭・貴ノ岩の頭部を殴ったという暴力行為が発覚した。事件があったとみられるのは10月25日夜、モンゴル出身力士ら10人程度が参加した宴席の二次会だとされる。

日馬富士が貴ノ岩に兄弟子へのあいさつなど生活態度を説いていた途中で貴ノ岩のスマートフォンが鳴り、操作しようとした瞬間、日馬富士が貴ノ岩に暴行したと伝えられている。ビール瓶で殴り、その後も激しい暴行を加えたと報じられている。日馬富士は暴行の事実を認めているが、暴行の態様については、異なる情報も伝えられており、確定していない。

貴乃花親方が鳥取県警に被害届を提出したのは事件の2、3日後とされる。貴ノ岩は11月5日から9日まで福岡市内の病院に入院し、11月12日に始まった大相撲九州場所を初日から休場している。

日本相撲協会に提出された貴ノ岩の診断書には「脳振とう、左前頭部裂傷、右外耳道炎、右中頭蓋底骨折、髄液漏の疑い」で「全治2週間程度」と記されているという。これらが事実であれば、重大な傷害事件ということになる。

ただし、事件があったとされる10月25日から、事件が一般に表面化し11月14日までの経過が十分に明らかにされておらず、関係者が問題を軽視して、秘密裏に処理を終えようとした形跡も伺われる。

問題とされることは、日本相撲協会およびNHKの対応である。なぜなら、相撲界の暴力事件問題は今回が初めてではないからだ。

2007年には時津風部屋で力士が親方にビール瓶で殴られるなどして暴行死する事件が発生した。今回の事件について、日本相撲協会は、11月2日に、危機管理委員会部長の鏡山親方が警察からの連絡で事件について情報を得ている。その後、貴乃花部屋と伊勢ヶ浜部屋に問い合わせたが、詳細を捕捉できていなかったとされる。しかし、11月14日になって事件が表面化し、日馬富士もこの日から「負傷」を理由にして休場した。

現役の横綱による傷害事件の疑いが濃厚になっており、相撲の興行そのものの是非が問われる事態であることは間違いない。NHKは大相撲放送を行っているが、テレビ放送の継続の是非を含めた検討が求められる局面である。NHKは、ニュース放送で、「九州場所閉幕後の調査」を繰り返し報道しているが、今場所のテレビ放送継続確保優先の、きわめて不誠実な対応であると言わざるを得ない。

大相撲ファンが多数存在し、大相撲人気が拡大しているとの現状はあるが、問題が、これまでに重大問題とされてきた相撲界の暴力・暴行事件であり、かつ、大相撲最高位の横綱の地位に現在ある者の問題であり、軽く扱い、後で考えれば良いという類の問題ではない。

事実解明を急ぐことが先決であるが、仮に、暴行事件で、被害者が死亡していたとすれば、事態はより深刻であったはずだ。

報道されている事件態様が事実とまったく違い、重要視する必要のない、障害にもあたる事実が皆無であった事案であるならともかく、「傷害」の事実があるような事案であるなら、そのこと自体が重大である。一歩誤れば、2007年同様の殺人あるいは傷害致死事件に発展する可能性も否定できないことになる。

日本相撲協会の収入の大きな部分が、NHKが支払う放映権料になっている。NHKは巨額の放映権料を日本相撲協会に支払っているが、その原資は言うまでもなく、放送受信者が支払う放送受信料である。放送受信者がNHKを通じて、日本相撲協会に巨額の資金を流し込んでいる。

その相撲界で、暴力・暴行体質が払拭されていないということであれば、NHKが相撲協会に巨額の放映権料を支払うことの是非が問われることになる。相撲ファンが多く存在し、相撲中継を望む者が多数存在するとしても、NHKの放送は相撲ファンだけのものでない。しかも、問題は相撲界の末端の人物が関与する問題ではなく、相撲界の最高地位にある者の問題なのである。

NHKがまるで何事もなかったかのように、相撲中継だけを、従前どおり、放映し続けていることに対して、NHK内部でさえ、これを問題視しないことがあまりにも不適正であると考えられる。真相が明らかになり、問題が払拭されるまで、当面、テレビ中継を中断することの是非について議論があってしかるべきだ。その程度に重い事案であると思われる。

事実関係に明確ではない部分があるため、事実関係を明確にすることが、まずは必要であるが、NHKが、問題の重大性をまったく認識しない対応をとることについては、NHKの放送受信契約者が大きな声を上げるべきである。興行優先の姿勢が強く批判される必要があると思われる。

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植草一秀(うえくさ・かずひで) 1960年、東京生まれ。経済評論家(日本経済論、金融論、経済政策論)。東京大学卒業後、野村総合研究所、大蔵省財政金融研究所研究官、京都大学経済研究所助教授、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、名古屋商科大学客員教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役社長。