<日馬富士暴行>相撲協会の稚拙な対応が無用な混乱を生む


両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]

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横綱・日馬富士の暴行問題が連日テレビを賑わせています。テレビは「謎」とか「疑惑」とかが大好物で、今回も事件が単純なのにも関わらず「謎」や「疑惑」がボロボロとこぼれ出て、情報は大混乱状態です。

そうした大混乱に陥った一因が相撲協会のリスクマネジメントにあることは間違いないでしょう。いつになっても「確定した事実」が責任ある立場から語られなければ、様々な人間から様々な情報が止めどなく出てきます。そんな真偽混交の情報こそ、マスコミ大好物の「謎」や「疑惑」の発生源です。こうした状況を産み出し、放置しているような相撲協会の対応に対して「最悪」という声が強くなっています。

事件はごく単純です。酒による仲間内の暴力沙汰で、世間にありふれた話です。もちろん天下の横綱を含む事件ですから注目されるのは当然ですが、組織がふつうに処理していればこれほどまでの騒ぎにはならなかったはずです。

こうした暴力沙汰が起きた場合、一般に組織はどう対応するのでしょうか。

法に触れるほどの暴行や傷害があれば刑事事件として警察が処理するのは当然で、組織は警察に協力するしかありません。一方で、警察とは別に組織としても事実を把握する必要があります。社会的責任に対応する必要がありますし、関係者の組織内処分などには正確な事実確認が不可欠です。組織はこうした不祥事に対応する常設部署、あるいは臨時に調査委員会などを作って事実掌握に努めます。顧問弁護士など外部に協力を求めることもあります。

筆者の経験では、今回は事実掌握が難しい事例とは言えないように思えます。たとえば、きわめて限られた人数が密室で引き起こした場合では「言った・言わない」「あった・なかった」の真偽を第三者が判断するのは難しいことがあります。

【参考】<日馬富士暴行問題>何事もなかったかのように相撲中継を続けるNHK

しかし、今回の事例は組織内の7人~8人の同席者がおり、外部の現認者も複数いるのですから、それぞれから、個別に、詳しく、状況を聞き、それぞれの説明を比較し、相違点をていねいに再確認すれば自ずと一定の事実は明らかになります。

こうした調査は記憶が鮮明で生々しい、早い段階ですることが肝要です。話題になっている、ビール瓶で殴ったのかも、初動で関係者全員から詳しく聴取して事実を確定していれば、「謎」などと騒がれることにはなりません。組織対応が遅れ、朝青龍や白鵬が「ビール瓶で殴ってはいない」などとマスコミに言った後では、事実はどうあれ、後輩力士は先輩に遠慮して正直に証言できなくなってしまう事もありえます。

今回の事件はすでに発生から一ヶ月近くが経過しています。にもかかわらず相撲協会は当事者である力士全員から状況をきちんと聞き終えていないようです。関係する貴乃花親方、伊勢ヶ浜親方からも、電話で話を聞いただけと言われています。しかも2人の親方の答えは「よく分からない」だったと伝えられています。そんな状態で放置し、後は警察におまかせしますという対応は一般常識からは疑問です。

こうした一般的には考えづらい対応を続ける相撲協会ですが、その要因は組織形態にあると言われます。ある評論家は相撲協会を町の商店会に例えます。商店街で、一軒一軒のお店が相撲部屋、そのお店をまとめる商店会が相撲協会です。

今回のケースは商店街の八百屋さんと魚屋さんの若い衆同士が喧嘩となり、一方がケガをしたようなものだと言うのです。この場合、八百屋さんと魚屋さんが話し合って決着を付けるべきで、必ずしも商店会が介入して責任を負うものではない、という理屈なのだそうです。

相撲協会では各相撲部屋の独立性が尊重されています。しかし、だからと言って町の商店会と同列に考えて良いのでしょうか。

日本相撲協会は、大相撲は国技であり、神事であるとしてきました。ならばよりいっそうの高潔さや倫理性が求められます。さらに2014年からは公益財団法人となり、税制上の優遇処置などを受ける一方で、リスク管理、コンプライアンス規定等々の遵守も求められる団体となっています。

これまで相撲協会に関係する暴力がらみの不祥事も数多く発生し、協会としての対応に失敗した苦い経験も十分すぎるほどにあるはずです。にもかかわらず、今回もまた動きが鈍く、稚拙な対応を繰り返しているように見えます。そうした協会の対応が数々の真偽混交の発言を産みます。日馬富士の酒癖について、良いとも悪いとも正反対の発言があったり、先輩に対する態度が悪かったという一部の発言によりモンゴルでは被害者の貴ノ岩が逆に悪者になったりしています。

相撲協会がスピーディーでしっかりした対応をしないことが無用の混乱を生み、結果として日馬富士、貴ノ岩という有為の力士を潰しかねない事態を招いているようです。

組織として、もっとも優れたマスコミ対策とはなにも語らないことではありません。信ずるに足りる正確な情報を的確に伝えることが賢いマスコミ対策です。「確定した事実」があればマスコミはそこから出発します。「確定した事実」がなく、興味深い「謎」や「疑惑」があればマスコミは追いかけます。当然のことです。もし責任ある組織が事の推移を放置し、正確な情報を把握し伝えなければ、そこから生まれるのは「無政府状態」の混乱です。今回はメディアスクラムも見え始めています。

おすもうさんに関するトラブルはこれからも続き、そのたびにおすもうさんを囲む組織は稚拙な対応を繰り返すのでしょう。そして、そのたびにおすもうさんの犠牲者が生まれます。

日本相撲協会は早く変わらないと、おすもうさんを守れません。

 

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両角敏明

両角敏明(もろずみ・としあき)テレビディレクター、プロデューサー。 バラエティ、報道、情報、すべての番組を手がけてきた。