NHK『所さん!大変ですよ』発達障害スペシャルで最も大切なコメントは伝わったか

高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]

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10月30日のNHK『所さん!大変ですよ』は、「発達障害72分スペシャル」。見る人におさえておいてほしい発達障害者の実像にはきちんとふれていて、好感の持てる放送ではあった。

だが、その一方で、発達障害の研究者としてテレビで発達障害を取り上げるときの危惧も、大いに感じた放送であったように思う。番組では、発達障害者がその特性を活かして就業し、未来に希望を持つに至った実例が紹介されていた。

*発達障害者が持つことのある類まれな集中力と、観察力で、ドライブレコーダーから走行時の危険を察知するビジネスマン。

*発達障害者が持つことのある類まれなこだわりと好奇心と器用さで葛飾北斎の浮世絵を再現し続ける少年。

*発達障害者が持つことのある類まれな注意力と細部への関心から、ハリウッド映画のワイヤーアクションにおいて写り込んでしまったワイヤーを画像から見事に消す技を持った映像加工者。

*どんな玉もバックハンドで打つことにこだわり続けるける卓球少女(彼女は後にフォアハンドにも目覚める。目覚めたら強いと思うが、フォアハンドに至るまでには時間が必要だったんだろうなあと筆者は思う)

これらは、もちろん実例であり、テレビが視聴者に見てもらおうと思ったときに、耳目を引くために取り上げたくなる驚きの映像である。誤解を恐れずに言えば衝撃映像である。それらは滅多にないという意味で同じである。NHKは、これらが滅多にないことであるというエクスキューズをきちんと入れており、勉強の後が伺える。スタジオには愛知県心身障害者コロニー中央病院・児童精神科医長・吉川徹氏が出演しており次のような趣旨のことを述べた。

「発達障害の方がすべて天才で、それだけで仕事が成り立つような能力を持っているわけではない。仕事はできたとしても、人づきあいとか、物や時間の管理がうまく行かなくなって、仕事が続けられなくなる人がたくさんいる。その支援が大事で、そこを忘れるとかえって彼らが苦しくなる」

このコメントを聞いて、発達障害の当事者や家族、支援者、研究者は、きっと大きく頷いたであろう。発達障害者には異能を持つ人もごく一部に存在するが、その他の多くは、人付き合いが苦手で、不器用で、役に立ちそうもないもディープなこだわりを持つ人々なのである。

だが「普通の発達障害者」の紹介や解説だけでは、沢山の人に見てほしいテレビは成立しないかもしれない」と放送作家でもある筆者は思う。だから、天才発達障害者を取り上げることになる。それでは片手落ちなので、そういう人だけが多数なわけではない、というコメントも入れる。だが、テレビジョンというものの特性が邪魔をする。テレビを見た視聴者の記憶に残るのは天才発達障害者の方だけである。

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番組では、発達障害が児童の15人に1人と紹介していたが、このデータの出典は、文科省が2002年に行った「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」であろう。これは教員に「学習面か行動面で著しい困難を示す」児童がどれだけ存在するか聞いたもので、回答は6.3%であった。

この調査はもちろん直ちに発達障害者を示すものではないし、答えたの発達障害の専門家ではない学校教員である。そのことについて番組出演の吉川医師は診断には「生い立ちを聞くこと」が大事と述べていた。母親父親の証言、母子手帳等によって生育歴がわからなければ発達障害の診断はできない。

特別出演していた将棋の加藤一二三九段(79)は、一手指すのに5時間考えた、対局中食べるのはうな重だけ、少年時代からの棋士としての類まれな能力など、異能型の発達障害者と思える点がたくさんあるが、生育歴がわからないので発達障害者とは診断できない。さらに発達障害者はその特性ゆえの生活上の困りごとがなければそう呼ぶ必要もないのである。

笑いに包んで発達障害者の特性を紹介するコーナーもあった。当事者会などでよく行われる「発達障害あるある」である。

*高価なバイオリンや、大切なトランペットを忘れた。

*同棲相手に「君はいてくれるだけでいい」と言われ、言葉をその字義どおりに受け止めたので、皿洗いなど全くしなかった。

筆者は当時者会のオブザーバーとして参加してよく思うが、こうしたエピソードは笑いとばしてしまえばいいんだとはおもうものの、「おもしろうてやがてかなしき鵜舟(うぶね)かな」と感じることも大切かなと考える。笑いに焦点を当てた海外ものドラマ作品ではイギリスの『Mr. ビーン(Mr. Bean)』や、アメリカの『ビッグバン★セオリー ギークなボクらの恋愛法則(The Big Bang Theory)』なども発達障害理解の助けになるだろう。

デンマークで行われているレゴブロックを使った入社試験の試みも紹介されていた。発達障害者に苦手な面接を行わず、彼らが集団でレゴブロックを作っている様子を観察して合否を決めるのだという。ただ、知りたかったのはどういう人が合格になるのかの情報であって、それなしではこのシステムの可否は下せない。

更に、この番組に欠けていたのは「知的障害を伴う重度発達障害者の存在」である。この番組で紹介されていたのは自閉スペクトラム症の中では、かつてアスペルガー症候群や高機能自閉症と言われていた人々のみで、彼らは一見障害と見えないことから重度とはまた違った困りごとが発生するが、それを理解した上で重度の発達障害にも思いを致す工夫が欲しかった。

 

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