これからはピン芸人・永野の時代だ

宮室信洋(メディア評論家)

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NHK「有田Pおもてなす」の2019年9月7日放送回に竹中直人がゲストで登場していた。この番組は、1人のゲストのリクエストに合わせて、芸人がネタを披露する番組である。

竹中直人は、自身の持ちネタである「笑いながら怒る人」などを2018年キングオブコント王者のハナコにコントの中に取り入れるよう要求した。竹中直人は、予定調和の笑いが好きではないと笑いの好みを説明していた。

竹中直人はもともと、お笑いで世に出てきた。当時、「TVジョッキー」という番組のザ・チャレンジという素人お笑い勝ち抜きコーナーで初代チャンピオンになるなどし、そのコーナーの3代目チャンピオンはとんねるずの石橋貴明であった。

「有田Pおもてなす」の2つ目のコントでは、2016年キングオブコント王者のライスに対し、予定調和が嫌いな竹中直人らしく「コントの最中に何かが起こる」というリクエストをした。コントの途中に加山雄三のそっくりさん芸人(ゆうぞう)が乱入したり、またピン芸人・永野が乱入し、自由にネタを披露していった。予定調和を破壊する芸人といえば永野だということだった。

先程も書いたように、竹中直人はとんねるずと同世代のお笑いだった。その頃のお笑い界やテレビは、比較的自由だったのだ。お笑いはその頃より、コンビが主流になっていったり、CMに行きやすいようなオチを入れる計算がされていくなどして、どんどん洗練されていった。

これらを主導したのが、明石家さんまとダウンタウンだった。しかし、それはお笑いのシステム化とも言える。明石家さんまとダウンタウンは特にプロとしてのお笑いを目指し、技巧を洗練させ、笑いのパターンを確立していった。

しかし、お笑いのパターン化はお笑いの本質さや芸術性とは矛盾するものである。社会システム理論家のニクラス・ルーマンという現代を代表する社会学者も、芸術の本質を新奇性としている。

[参考]<道徳性の暴走>木下優樹菜のタピオカ店騒動

芸人ならばパターン化された笑いではなく、新しい見たことないものを見せて笑わせたい、そこには芸術性が宿されているのだ。ちなみに明石家さんまとダウンタウン松本人志では、ここに大きな違いがあり、明石家さんまはパターンの笑いを追求し、松本人志は笑いの芸術性を追求している。プロの芸人ならばいつでも笑わせることができるべき、明石家さんまの場合はこの発想から、笑いのパターン化を追求し、芸人のプロ性の追求は必然的にこの方向へと至る。

社会のシステム化、パターン化は消費社会論で著名なジャン・ボードリヤールから導くことができる。大量生産の先にある様々な色違い商品は、小さな違いを生むといえども、やはりそれはパターン化へと至る。見慣れた商品やエンターテインメントは、あらゆることがらのパターン化された社会へと至る。それを、どれが本物でどれが偽物かの区別がつかない物で溢れているパターン化された「シミュレーション社会」という。

そのパターン化されたシミュレーション社会を克服し、あたかも本物の何かを求めるかのごとくという中に挑戦的なお笑いが存在する。お笑い芸人が有り余り、ひな壇というスタジオセットに多数の芸人が並び、短い時間のやりとりでしか自分を表現することができない。

関西よしもと流の、ひとネタ振って、いつものひとネタが返ってくる中で「笑いが成立した」とされるお決まりなやりとりを素地にすると、その場で生み出される新しい笑いのやりとりの自由は奪われる。

「笑いの成立」のシステムの中で、サラリーマンに限らず、サラリーマン的になった芸人が歯車として扱われる。偉大な社会科学者カール・マルクスのいう「物象化」である。スター芸人が現れなくなった背景もこうしたところにある。

今回のゲストで登場した芸人の永野はある程度の尺を持つ自分のネタを比較的自由に入れ込めるいかにも自己表現が強い芸人の代表である。今回の番組ゲストであった竹中直人やその同世代のとんねるずも、自己表現が強く、予定調和を嫌うシステムの笑いの批判者であり、彼らがよしもと芸人と合わないのもはっきりとした故あるものである。

ちなみに、竹中直人に憧れる、よしもとの経歴も持ついかにも予定調和破壊芸人ハリウッド・ザコシショウは、予定調和破壊ポジションを手にしつつも、笑いのパターンに入り込めるやり方をも手にしている。

また、よしもとの予定調和破壊型芸人くっきーは、テレビ朝日「ロンドンハーツ」で、とんねるずからの多大な影響に言及している。 この記事の具体的な芸人は、上記の通り、永野がその代表事例であった。この記事は冒頭の通り10月初旬に起草したものである。

この記事を書いて以来、「そういえば永野は最高な芸人だった」と思ったものであったが、かといってそうは言っても、永野がこれ以上テレビで活躍するビジョンは正直見えてなかった。
そうこうしているうちに永野を最近ちょっとずつテレビで再びよく見るようになってきた。今後も永野をよく見ることが期待できる番組は1つはやはり同じく有田哲平のフジテレビ「全力!脱力タイムズ」である。

最近はアンタッチャブルを復活させた番組として、これまた注目されている。元々、有田哲平はザキヤマこと山崎弘也の兄貴分的存在なので、この番組でアンタッチャブルが復活するのは、むべなるかなというところであるが、有田哲平が永野を重用するとはなかなか驚きなことである。しかし有田哲平はホリケンこと堀内健と昔から仲が良く、以前は2人でテレビ東京で「アリケン」という番組もやっていたことを考えれば、このような芸人の使い方もなるほどというところである。

有田哲平自身は、すごくベタなボケを中心としていたり、昔はザキヤマとともに寡黙なキャラをやってみたり、不思議な芸人ではあるが、「脱力タイムズ」で見られるように、芸人のプロデューサー的存在として重要な地位を占めていると考えることは大いにできる。

「脱力タイムズ」では、コウメ太夫をうまく使っていたり、 コアなお笑いファンからすると、 非常に求められているものをなしており、また芸人の名プロデュース番組であると言える。脱力タイムズは、今後もお笑い界において重要な位置づけをなす番組であろう。

なお、永野は、最近では、斎藤工のおすすめ芸人として再びよくテレビに出ている。以前から斎藤工はお笑いに寄り添うような仕事の仕方をしていたが、まさかここまでコアなお笑いの趣味であり、フィクサー的な動きをしてくるとは誰もが驚いたことであろう。

斎藤工もコアな好感度をここにおいて上げていっていることと思われる。こうした動きは、お笑いの硬直化を防ぎ、お笑いの進化を保障するものだ。永野こそ今こそ求められ、時代を切り裂く芸人の1人だと言えよう。

 

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