ミネソタ黒人男性殺害と渋谷署暴行陵額事件 -植草一秀

政治経済

植草一秀[経済評論家]

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米国中西部のミネソタ州ミネアポリスで5月25日、丸腰の黒人男性が白人警官にひざで首を組み敷かれた末に死亡する事件が発生した。この暴虐事件に対する抗議活動が全米各地に広がっている。ミネアポリスでは連日のデモで一部が暴徒化して略奪や放火が発生。警察署も炎上した。ワルツ州知事は5月28日に非常事態を宣言して州兵の展開を命じた。

東京新聞は次のように伝えている。

「『お願いだ、お願いだ…。息ができない』。ひざ立ちする警官と舗装路の間に首を挟まれ、ジョージ・フロイドさん(46)がうめき声を上げる。やがて動かなくなる。居合わせた人が撮影したこの動画がインターネットで拡散した。警官に膝で押さえつけられた時間は八分以上に及んだという。抗議活動拡大について米国のトランプ大統領はデモ隊を『ごろつき』と呼び、『州兵を送り込む』と書き、さらに『略奪が始まれば、発砲が始まる』とツイートした。」

このツイートに対してツイッター社は「暴力を賛美する」内容だと判断して警告した。

BBCは、

「トランプ大統領の『略奪が始まれば、発砲が始まる』という言葉は、1967年12月にフロリダ州マイアミ市警のウォルター・ヘッドリー本部長がアフリカ系市民を厳しく取り締まる際に使用したもの。ヘッドリー本部長は当時、公民権運動のデモをくいとめるため、黒人地区で警官が銃や警察犬をことさらに誇示することを奨励していた。この表現はその強硬策の一部だった。」

と伝えている。ヘッドリー本部長は、黒人の権利向上を主張する公民権運動を利用した「若い黒人のちんぴらによる犯罪が横行している」との見方を示し、黒人社会と激しく対立した。

トランプ大統領はヘッドリー本部長と同じスタンスを示していることになる。トランプ大統領の人種差別的言動について日本経済新聞は次のように伝えている。

「トランプ氏はこれまでも人種差別と受け取られかねない言動を繰り返してきた。2017年には暴徒化した白人至上主義者について『中には良い人もいる』と指摘。白人至上主義を肯定したとして猛反発を受けた。16年の大統領選では黒人社会をめぐり雇用や教育などの環境が悪いと指摘した上で『失うものはもう何もない』と語ったこともあった。米紙ワシントン・ポストなどが20年1月に黒人を対象に実施した調査によると、トランプ氏が『人種差別をより大きな問題にした』との回答は83%にのぼった。77%は『いまは白人にとって良い時代』と答え、83%は「『ランプ氏が人種差別主義者』とみなした。」

多様性が重視される時代に、多様性を否定し、少数者を差別、弾圧する傾向を有する人物が台頭している。トランプ大統領は事件への抗議デモに対して黒人差別的な表現を使いながら武力制圧も辞さない意向を示している。11月の大統領選ではトランプ大統領の人種差別行動の是非も問われることになる。

この傾向は米国だけのものでない。日本では警視庁渋谷警察署の警察官2人が東京都渋谷区の路上でクルド人男性を押さえ込んで首に全治1ヵ月のけがを負わせるという事件が発生した。このことに抗議するデモが5月30日に渋谷警察署近くで実施された。クルド人男性は5月27日に氏名不詳の警官2人を特別公務員暴行陵虐致傷罪で東京地検に刑事告訴した。同男性は毎日新聞の取材に対して、

「交通違反も何もしていないのに、外国人というだけでひどいことをされた。外国人だから、話も聞かずに乱暴することが許されていいのでしょうか」

と話している。男性の訴えについて毎日新聞は次のように伝えている。

「告訴状などによると、5月22日午後3時半ごろ、男性が乗用車を運転してJR恵比寿駅前で停車していたパトカーの脇を通り過ぎ、明治通りで左折したところ、サイレンを鳴らして追尾してきたパトカーに停止を命じられた。男性は警官から『車の内部を調べたい』と求められたが、治療を受けている歯科に向かう途中だったため拒否。その後、警官2人が車を降りた男性の両腕をつかみ、首を押さえつけて、地面に引き倒すなどし、首や脚、脇腹にけがをしたという。車に同乗していた男性の友人が撮影した動画には、『何もしてない』『さわらないで』『話を聞いて』と訴える男性に、警官が『なめんなよ』と声を上げ、地面に座らせ、首に腕をかける様子が収められていた。男性によると、現場には約30人の警官が駆けつけ、男性の承諾のないまま、車のトランクにあった段ボールが破かれたり、バッグの中身を調べられたりしたが、そのまま現場で解放されたという。」

米国の警官暴虐事件だけが伝えられているが、日本の実態も類似した状況にあることを私たちは知っておくべきだ。

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