森氏「コロナがどうなろうとやる」撤回が最重要 -植草一秀

社会・メディア

植草一秀[経済評論家]

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問われているのは森喜朗氏の個人的な考え方でない。森氏が女性蔑視、女性差別の発言を示したとき、JOC評議委員会に出席していたメンバーは笑っていた。誰も森氏の発言に異を唱えなかった。翌日、森氏が逆ギレ会見を行ったあとも森氏に厳しく対峙する者は皆無に近かった。

萩生田文科相に至っては「『反省していないのではないか』という識者の意見もあるが、森氏の性格というか、今までの振る舞いで、最も反省しているときに逆にあのような態度を取るのではないか」とまで言ってのけた。

茶坊主でももう少しまともな取り繕い方をする。自浄能力をまったく持ち合わせていない。森氏の会長辞任後、森氏に名誉職ポストが用意されるのかどうかも注目される。名誉職ポストが用意されるなら引責辞任の意味は消滅する。批判が沸騰して、その場を取り繕うだけのものになる。森氏は根拠のない偏見に基づいて女性を侮辱し、差別する発言を示した。それだけではない。

「私たちはコロナがどういう形であろうと必ずやる」と発言したが、その理由として「日本のアスリートのためだ」と述べた。

なぜ「全世界のアスリートのため」ではなく「日本のアスリートのため」なのか。五輪にナショナリズムを持ち込んでいる。JOC理事のなかで唯一、冷静な正論を提示しているのが山口香氏だ。山口氏は次のように指摘する。

「問題は日本国民であり、五輪を開催することでリスクを負うのは私たち日本国民だということです。」

この認識を踏まえて現状を

「厳しい状況にはあると言わざるを得ません。」

と述べた。

山口氏は五輪を開催することは可能だと判断する。

「多くの国が選手を派遣してくれると思います。つまり、選手を送り出す国にためらいはない」

と判断する。問題は、五輪開催でリスクを負うのは日本の国民であること。選手だけで1万人以上が入国することになる。コロナ感染が拡大し、相次いで変異株が出現しているなかで、全世界から多数の人が日本を訪れる。そのことによって変異株が日本に持ち込まれるリスクはきわめて高い。

毒性の高い変異株が出現するリスクがある。感染力の高い変異株が出現するリスクがある。ワクチンが有効でない変異株が出現するリスクがある。現在、日本では1日当たり100人以上がコロナ死している。年率換算で3万6000人を超える。自殺者が最大に増加した2003年でも自殺者数は年間3万5000人に届かなかった。コロナ感染が判明しても放置され、そのまま放置民死に至る事例が多数発生している。

政府の第一の責務は国民の命と暮らしを守ること。この基本を踏まえて、いま五輪開催を強行することが正しいのかどうかが問われる。五輪は巨大な営利事業と化している。この営利性=利権が五輪開催強行論の背景。森氏が辞任しても営利優先=利権優先の五輪開催強行論が引き継がれるなら組織の問題は解消しない。

責任を持つべきは政府。政府が国民の命と暮らしを最優先に考えて五輪開催の是非を判断する必要がある。森氏引責辞任を五輪開催強行の原動力に仕立て上げる愚を断じて許容してはならない。

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